「求める理想は実現する」 その98
GOPとシステムの関係性(下)

Press release
  2008.06.07/観光経済新聞

 新しいシステム導入への3つの関門を前2回にわたって述べてきた。いずれにしても、そこにはGOPの発想が不可欠な要素となっている。そこで、GOPとシステムを含めた投資について捉えてみよう。結論から言えば、旅館のオーナーは、いきつくところ客室への投資に終始している。そして、人件費とシステムの関わり方への認識が薄いために、オペレーション部門への投資が、どうしても後ろ向きになっている。
 もちろん、システムを導入すれば人件費が下がり、引当ができることなども分かるのだが、システムへの投資原資を確保できないケースが多いのも事実だ。そうなると、「GOPアップへの投資ができない→売上が上がらない→実績があがっていないから借入ができない→投資ができない→売上が……」という構図に陥ってしまう。
 一般に経営が苦しくなると、3K(交通費、交際費、広告費)の削減に努める。バブルが弾けたころ、ある旅館のオーナーは「旅館が広告費を切り詰めるのは、経営が苦しいことの裏返し」といった。だが、3Kよりも販売管理費の中で30%近い割合を占める「人件費」を、いかに抑制するかが大きな課題だ。そこで、パート化や外注削減などを行ってきたが、目に見える部分だけの人件費削減では、CSが低下するとともにESも低下して、商品価値と企業価値がともに下降してしまう。システム(社内の仕組み)を変えないと、本当の意味でGOPを上げることにはつながらないといえる。
 換言すれば、システムによってコストを削減し、それをGOPアップに反映させることが可能ということだ。しかし、運営コストを削減して弾きだせるGOPには、おのずと限界もある。前述の話と矛盾するようだが、ここでいう限界とは、運営コストがある程度適正な健全経営の場合であって、多くの旅館では、運営コストにムダな贅肉がつき過ぎており、そうした旅館での運営コスト削減はGOPアップに大きく貢献する。この点は誤解しないでいただきたい。
 運営状況の健全度の判定は、自ら行うことも可能だが、より適正に行うには第三者のシビアな目が不可欠といえる。なぜならば、井の中のカワズというのは若干の語弊もあるが、過去の経験に照らして「この程度のもの」と判定しがちだからだ。本コラムで紹介したように『GOPが15%以下どころか、まったく確保できていないことさえ何やかにやと理由をつけて「やむを得ない」と納得したり、中には「そんなものだ」と開き直る経営者までいる。そうした諦観にも似た状況は、他の産業ではありえない。「それでも旅館はやってこられた」とうそぶく経営者もいる』といった状況が現実にある。加えて『有利子債務が年商の1年程度であるにもかかわらず、GOPが数%では返済能力が認められなかった』というのが、第三者(融資側)のシビアな判断だった。

 いずれにしても、GOPをアップするには、健全経営の運営状況ならば「売上拡大策」、そうでない場合は「コスト削減策」が、それぞれ焦眉の急であるということだ。
 そうなると、売上を上げる技術をもったオーナーの旅館が、必ず勝つということになる。オーナーの経営センスであり、資質が大きくものを言う。例えば、地元のブランド食材を使って企画を打つイベント的な売上手法、1万円前後の最多マーケットに対して、それにフィットした企画を打つ手法などさまざまだ。さらに、ハード面でロビーだけを改装して、客のファーストインプレッションを掴むオーナーもおり、1万円をターゲットの中心に据えてながらも、狙い目よりも高い客層を1〜2割り増やすことまで計算している。あるいは、設備投資によって絶えず刷新を続けるオーナーは、ハードに手を加えることで、意図する企画を実現させ、それによって売上を伸ばしていく手法だ。
 つまり、GOPアップの要因はコスト削減と販売増進であり、オーナーには売上をコントロールする手法が不可欠だということに尽きる。

(つづく)

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