新しいシステム導入での第2の関門は、外部からもたらされた話を、実際にオーナーが聞く段階にたどり着いたときのことだ。一般には、話を聞きながら自社の状況と刷り合わせを行い、メリットの有無を判断する。ところが現状の多くの旅館オーナーは、話の途中で諦めが先行してしまう。なぜならば、新しいシステムへの取り組みでは、相応の資金投資が必要なのがわかる。そうなると自己資本にしろ融資にしろ、資金の目途が障壁となって立ちはだかってくるからだ。
ここでいえることは、「システムの有用性は理解できるのだが、私のところでは…」という場合に、「GOPは現状程度でやむなし」といった安定志向が根強い。もちろん、これではGOPは上がらないわけだ。諦めも現状維持も、いわばGOPへの思いが希薄に過ぎる。健全経営で旅館を持続・発展させるためには、すでに書いたような「貪欲さ」がオーナーにはほしい。
第3の関門は、聞いた話の具体化をどう図るかという段階で、システムのハードとソフトへの認識の仕方にある。ハードは目に見える世界であり、それを見て高いか安いかの見当をつけ、何がしかの判断を下すことも可能だろう。いわば、割引率交渉の世界ともいえる。一方のソフトは、使用しなければ真価を判断できない。しかも、使い方ひとつで効果の出方も異なる。そうなると、導入した旅館によって評価も多様なものになってしまう。
例えとしての妥当性は別にした場合、自動車のハードとソフトは、車としての機能性がハードであり、運転がソフトといえる。運転の仕方が悪くて事故を起こした場合に、それを車のハード(機能)のせいだという人間は、よほどの変人でないかぎりあり得ない。一方、システムはハードとソフト(仕組み)が一体になり、もう1つのソフト(運用)ともいうべき日々の運用方法が三位一体となって機能している。
禅問答のような話になってしまったが、ここにソフトを考えるヒントがある。ソフトへの対応としては、正攻法で理解して導入するのがベストであることはいうまでもない。だが、目端が利くといわれるオーナーは、導入をせずに理解できた部分で自ら試みようとする。また、導入先などを訪ねることで、ハードと日々の運用といった見える部分を真似ることもできる。しかし、これらは真似たと思う錯覚であって、ハードと運用を関連づけている仕組みが欠落している。あるいは、ハードと仕組みを真似ても、運用を練熟できずに無意味でムダな投資に終わる。
つまり、ソフトに対する認識の浅いオーナーが多いということだ。そうした場合、GOPがある程度あがっていても、再投資を避けるといった傾向につながっており、いずれは厳しい現実に遭遇することになるのが必定だろう。
こうしたオーナーの資質は、まさに各人各様だ。そうなると、成功はオーナーの「資質の総和」であるという認識がクローズアップできる。一例をあげてみよう。旅館業界で経営手腕に一目を置かれているオーナーがいる。そのオーナーは、業界の成功例があると多くの場合に自館でも取り入れ、それなりに成功へ導く消化能力をもっている。それ自体をどう評価するかは避けるがそのオーナーがあるとき、同業者の中で異業種展開を行い、相乗効果的に成功している別のオーナーの事業形態を真似たことがある。結果は、ものの見事に失敗した。
結論をはしょっていえば、異業種展開をしているオーナーには、異業種のメカニズムに対する知識と経験があったのだが、真似たオーナーにはそれがなかった。表面だけを捉えて「いいとこ取り」を試みても、それでは本物の成果物は得られない。オーナーの資質を考えるときには、この点も欠かせない。それゆえに「総和」なのだといえる。
いずれにしても、勝ち残るか否かはオーナーの資質にかかわっている。そして、勝つための厳然たる理由もある。それがマーケットを見る目だ。
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