前回、アライアンスの会議で俎上された弊社システムの話をした。そこで垣間見られたのは、オーナー1人ひとりがさまざまな思惑で参加しており、システムやGOPへの発想、取り組み姿勢も実に多様なものがあるということだった。言い換えれば、GOPアップは旅館にとって永遠の課題であり発想も千差万別ということだ。
さて、GOPを追及することは旅館のオーナーに不可欠だが、闇雲に過ぎると弊害もある。昔から「鹿を追う者は山を見ず」の喩えがあるように、周囲の状況に気を配る余裕がなくなり、進路や退路を見失うことにもつながる。経営の現場にあてはめれば、状況を無視する形になり、ひいては適切な判断が下せなくなる危険を孕んでいるということだ。
複数の旅館をチェーン展開しているオーナーがいる。彼は、システムの必要性に対する理解力もあり、展開する主力旅館で実際に導入し、当初の狙いの1つであったCS向上(アンケート点数のアップ)が実現しただけでなく、シフト運営をはじめとする館内運営でのコスト削減も大幅に達成できた。これと並行して2〜3%だったGOPも、20%を超えるレベルにまで達した。ところが、GOP一点張りでそこまで到達してみると、システムに対する姿勢が変わってきた。「自分の経営課題」(余ったキャッシュフローのみの投資戦略の変更)により、システム改善も行いたいし客室の改装を優先させる。経営に自信をもつことは大切だが、俗に言うコワモテ的な独善が表面化してくると、今後の方向性にも何がしかの影響が出てくる。オーナーの力量を最大限に引き出せるシステムには、成功のために抑えていた自我を表面化させる両刃の剣のような一面もある。
前置きはここまでにして、表題のGOPとシステムの関係性に移ろう。新しいシステムを導入するプロセスでは、およそ3つの関門がある。第1の関門は、これまで培ってきたオペレーション手法とは異なる新しいシステムに対して、聞く耳をもち、関心を抱けるか否かだ。言葉を換えれ、技術は絶え間なく進歩しており、進歩への関心のもち方といってもいい。導入するか否かは別にして、関心をもつ感性の柔軟さが欠かせない。
余談だが、文化は理想を描いてそれに近づこうとする精神活動であり、その活動によって便利な道具である文明が生まれる。例えば、人間を特徴づける1つの行為として火の利用がある粗朶や薪よりも火力の強い炭が発明され、それよりも扱いやすい石炭やガス、石油、電気へと熱源は変化してきた。どの利用段階にしても、初めて出会うものを懐疑するのは当然だが、耳も貸さず懐疑もしなければ、今日では当たり前の電気さえ、そうした人間は利用することができない。この話は、いささか極論といえるが理屈は同じことだ。
つまり、第1関門で便利な道具を使う途を、自ら閉ざしているオーナーが、いかに多いかということでもある。ただ、これはオーナーだけの問題ではない。社内の仕組みにも一因がある。というのも、こうした新しい話題が外部から持ち込まれるシチュエーションを考えてみると、納得できることが多い。例えば、ある程度の企業規模になると、外部からの話は総務部なりしかるべきセクションが対応の窓口となる。窓口の担当者がにぎり潰してしまえば、新しい話題がオーナーに伝わることはない。オーナーは耳をふさがれたのと同様で、判断のしようがない。
この構図は、オーナーが独善的でコワモテ振りを発揮しているケースと、担当者の力量不足などがからみあっている。コワモテの場合は、担当者がオーナーの顔色をうかがって余計な話を上にあげない場合だ。これに対して担当者の力量不足は、新しいものへの判断力がない場合と、担当者レベルでは経営全体(GOPを含む)で発想できないケースなどがある。これらは、俗にいう企業風土といった問題であり、詰まるところオーナーの人間性や経営者センスが作用している。いずれにしても第1関門で話は消えてしまう。
|