販売促進に向けてさまざまな取り組みがなされている。その1つに、同志的なつながりによるアライアンスがある。基本的には、同じ志の旅館が集まるわけだがといって経営者の発想がすべて同じというわけではない。それぞれが呉越同舟ともいえる思惑で、何かを得ようとしている。情報交換だけでなく互いに刺激をし合い切磋琢磨につながることも期待できるし、何もせずに現状への不満をくすぶらせているよりは、大いに意義のあることだといえる。
そうしたアライアンスの会議で、弊社システムの話が出たという。会議に出席していたオーナーの伝聞を、私なりに整理してみた。まさに、十人十色の経営者像が、そこに垣間見られるのだ。
その中のA氏は、規模の異なる2軒の旅館を経営している。ほかに外食産業の分野でも手腕を発揮しており、新しいタイプの経営者として注目されている。別の1人であるB氏は、旅館のほかにデパートへ食材を卸す事業も手掛けている。こちらもマルチな経営者として注目できる。一方、C氏は「石橋を叩いても渡らない」というほどの安全志向の持ち主で、C氏の旅館の専務が新しい企画を打ち出しても、一向に首を縦に振らないという。
さて、配膳システムの話になるが、A氏は導入をほぼ決めている。その背景には、厨房スペースの問題が大きい。というのもA氏の旅館は、昨今ではハイレベルともいえそうな2万円近い客単価を弾きだしている。詳細は定かでないが稼働率も「相当に高い」と聞いている。加えて、昼間の食事休憩が宿泊者数と同程度の高いアベレージにある。いわば、1軒で2軒分の厨房作業をこなしているのにも等しいわけだ。これでは、「厨房が手狭になっている」のも当然といえる傍目には羨ましい話だが、一朝一夕にそうした状況が生まれたわけではない。A氏がトップセールに奮闘し、20年余の積み重ねが現在につながっているのだ。そこにあるのは、他人の真似ではない「努力の賜物」であり、頭の下がる思いでその話を聞いた。また、別の観点から捉えるとマーケットの創造力に富んでいる。
同館の場合、A氏の努力と創造力という経営者資質なくしては、現状の繁栄はなかったといえる。したがって、表面だけをみて経営手法を真似ることはできない。言い換えれば、俗にいう「パクリ」では、一時は効果が出ているようにみえても、パクリのメッキが?げれば、元の木阿弥になってしまう。それどころか、元々あった仕組みさえ混乱させてしまい、状況をかえって悪化させてしまう。(「いいとこ取りの弊害」図は拙著『財務解析・売り方で旅館が変わる』観光経済新聞社刊から)
これだけの実績をあげているA氏だが、GOPに対する姿勢は貪欲といっていいほど旺盛だ。利益が十分に出ている現状をさらに向上させるために、配膳システムの導入を図ろうとしている。ただし、A氏の場合は単にコスト削減だけに注目したのではない。配膳システムには、独自のノウハウとして「オールラウンド」という人員の効率的な運用がある。これは、人員の余力を多部門で効果的に活用するものだ。端的にいえば、送迎をはじめサービス評価に直結する要員を、人件費増をせずに厚くすることができる。A氏は、その点もしっかりと見抜いており、「単価維持とアンケート評価の向上」が、導入のモチベーションとなっている。
したがって、アライアンスのメンバーの中には、「あんなに儲かっているのに、さらに…」と不思議がるオーナーもいたという。そうした中でB氏は、A氏の動向を注視しており、予想どおりの成果を確認できれば、自館でも導入の方向を固めているようだ。
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