前回のメジャーな温泉地にある大型旅館の話を続けよう。
そこの幹部社員は、問題を投げかけると、まず初めに否定から入るのだ。例えば、GOPを少しでも改善するために運営変更などを提示すると「それはムリだ」と、やってもいない前から「できない理由」ばかりを探して挙つらう。会社は、そうした幹部社員に対して年間で総額1億円以上の人件を費やしている。しかも、幹部社員のそうした姿勢は、オーナーもすでに承知しているから不思議だ。だが、実は、そうしたケースはこの旅館に限ったことではない。
余談だが、そこには両者の馴れ合いがある。例えば、日常のクレームなどで「毎日同じ作業を繰り返していれば、時には勘違いや度忘れで、〈そうしたミスもあり得る〉と、叱責する上司もされる部下も内心では思っている。いわば、馴れ合いが生じているわけである。これでは事態が何ら改善されない」(拙著『赤字が消える?旅館が変わる!』下巻、観光経済新社刊)というのと同じ「デキレース」が、その旅館のオーナーと幹部社員の間で繰り広げられている感が否めなかった。
本題に戻ろう。私が提示した運営変更は、それが経営に直結するものだけに「できない」では済まされない性格のものであるはずだ。ところが、それまで何の手も打とうとしなかったオーナー自身が、会議を重ねるにつれて変わって来た。幹部社員に対して「何としてもGOPアップを図る」といい切ったのだ。いわば内部留保があって安閑とした姿勢を捨て、発想の転換を自ら図った。 こうなると、元々が立地的にも施設的にも恵まれた条件が備わっているだけに、従前の12%を健全化へのハードルである15%超、17%ぐらいにまで引き上げことも現実味をもってきた。
さて、ここ2回でマイナー的な温泉地の旅館とメジャーな温泉地にあるこの旅館と2つのケースをみてきたわけだが、どちらもGOPは15%を下回る点で共通しているが、前者はそれに対して「諦め」ともいえる受け止め方、後者は現状のGOPをこの程度でいいかと「妥協」している違いがあった。諦めを覆してGOPアップを図るには、相当の決意と努力を強いられるが、妥協の場合は発想を転換することで目覚めることができる。いわば、潜在能力を顕在化させるといってもいい。
また、両者に共通するもう1つがマネジメントのありようだ。極論すれば、1泊2食の伝統的なマネジメントで、不動産業と料飲業を単眼的に捉えていることだ。
そこで、もう1つ別のケースとして別のメジャーな温泉地にある大型旅館の話をしてみよう。この旅館では、不動産業と料飲業をデュアルチャンネル的に管理し、最終的にそれらをGOPに帰結させるマネジメント手法を確立している。GOPをみると20%を超えている。
大雑把にいえば、宿泊総単価の50%で厨房関係(原材料を含む)と接客を賄い、残りの50%を不動産業としての室料にあてている。この室料の中でフロント、経理、予約、施設、役員給与などを賄っている。
こうした「足かせ」ともいえるマネジメントの概念が欠如すると、往々にして厨房関連の経費が膨らんでしまう。例えば、厨房要員の運営を変更しようとした場合など、冒頭の「ムリだ」という意識が改善の前に立ちはだかり、「じゃあ6:4で」といったデキレースになる。これではGOPは目減りするばかりだ。
実際問題として、冒頭で紹介した旅館には板前が19人いるのに対して、厨房関係50%の足かせがある旅館の方は、客室数が倍近くあっても板前は16人しかいない。もちろん、前者の方が料理の評判はいいし、GOPを減らしてでも差別化施策として後へは引けないのかも知れない。この辺りの判断は微妙だ。
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