鉄則の1〜4を述べてきた。さて、現状をみるとGOP15%が確保できていない旅館が、あまりに多すぎる。現実問題として15%確保できなければ利払どころか元本の返済もできない。そうした旅館は、突き放した言い方をすれば、現状を放置する限り「退場」へ向かっていると言わざるを得ない。だが、これでは寂しい。そこで鉄則5として「発想の転換」をあげておきたい。
現状を打破するには、第1に売上を上げなければならない。改めていうまでもないのだが、実は努力目標の方向性に問題がある。高価格帯を目指しても、現実のパイがなくなっている。そこで、現状以下のパイを獲得しようとするわけだ。しばしば「客単価が下がった」という話を聞かされるが、現実を真摯に捉えるならば、その価格帯が市場ではノーマル価格であるということだ。実際に1万円台を志向する層が全体の6割を超えている。この層はさらに増えることはあっても減ることはない。
もう1つ大切なことは、一般販売管理費をどれだけ削減するかにある。とりわけ、人件費をどこまで落とせるかが、大きな課題となる。これまで述べてきたように、第一段階は館内の棲み分けでオペレーションコストを下げる。それでもGOPが出なければ、販管費を再び見直さなければならない。その場合は、サービスの負荷を下げる。極端な例を挙げるならば、3万円のお客であれば、夜間のルームサービスにも対応しなければならない。ナイトフロントや夜警が応じるとしても、そのためには複数の要員を配置しておかなければならない。ところが、夜間のルームサービスを行わない体制(価格セグメントほか)に移行すれば、その分のオペレーションコストが削減できる。同様に、玄関や客室入り口の看板やカード、あるいはテレビ番組表なども省略できる
そうしたオペレーションコストは、個々にはさほど大きなものではないが、実際に一定期間の累積値として解析すると、相応のサービスコストになっている。逆に自館のセグメントが明確ならばさまざまなコストが軽減できる。それを積算すれば、GOPに跳ね返ってくる。そこに、棲み分けによるGOP創出がある。
以上の要点を模式化すると下図のようになる。つまり、従前の運営体制・経営体質のままではどれも「×」になってしまう。そこで「発想の転換」が不可欠となる。また、単に転換しても思いだけではどうにもならない。それを現実に移す運営変更が同時になされなければならない。そうした場合に目安となるのが自館のGOPだ。普通に経営をするには15%は必要だし、健全な旅館では20%は出している。
ある地域のトップ旅館の経営者は「昔は28%出していたのだが現在は21%だ」というが、「この10年は価格を下げていない」ともいう。この旅館は、価格セグメントを明確にして、客対応のサービスグレードはきっちり維持しているが、オペレーションコストは厳密に精査して一切のムダを省いている。しかも、そこで上がった差益の何パーセントかは、客に再投資する発想を実行に移している。したがって、地域のトップ旅館がそうした経営状況だと、地域全体としても極端な安値志向がない。逆にトップが値下げをしてしまえば、地域全体に悪影響を及ぼしてしまう。
価格を下げない理由はほかにもある。旅館だけでなく飲食店や土産物店をはじめ、地域が一体となって街づくりをしてきた。そのためにトップ旅館は、自館の売店を縮小して地域との一体化を率先した。個々の経営努力と地域のコンセンサスが調和して、旅館と地域のブランド力が「温泉地力」として集客アップにつながっている。昔から「急がば回れ」といわれるように、街づくりに相応の時間を費やしてきたが、現状ではそれが奏功している。次回からは、上記のような具体例を紹介していきたい。
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