鉄則3とその補足で、館内を複数の旅館に棲み分ける方法と、さらにGOPはそれなりに確保できているものの、実際には需要の少ない高額部分を思い切って捨てる発想を述べた。こうした措置を必要とする背景は、これまでにも「価格の高い旅館が集中力の強化を狙って価格を落としてくる。そうなると従来その価格帯だった旅館は、それよりも低い価格に引き下げなくてはならなくなる」と記したように、こうした構図を極端にいえば「高→中、中→低、低→?」となって際限がなくなってしまう。
視点を変えてみよう。最近では、スーパー銭湯をさらにレベルアップしたような施設が賑わっている。旅行宿泊において旅館の総合的な魅力の1つである「温泉を楽しむ」というよりも、「風呂に入る」ことが旅行の動機つけといえるマーケットだ。そうした施設の利用者でも、7000円から1万円の総消費が想定されているし、実際に近似の売上によってGOPも確実に上げているようだ。いわば、その価格帯が施設で1人当たりの消費額として値ごろ感を持っている。
この価格帯は、マーケットの中で大きなボリュームをもっている。そこで、「旅館は、こうした層をもっと狙う必要がある」と提案すると、多くの経営者が「その価格帯は、とっくに狙っている」と答える。その時の表情は「今ごろ、なぜ」と言わんばかりだ。
確かに、現実問題としてこうした価格を念頭に置いた単価の引き下げは行われているが、「高→中、中→低、低→?」の構図が進む中での結果論に過ぎないだけだともいえる。つまり、単価を引き下げたとしても、運営オペレーションに照らしたときの人件費に整合性がなくなっているのだ。とりわけ一部に残した高い料金帯には、それなりの人間の質、出迎えのフォーメーションが求められており、その部分では引き下げれば下げるほど赤字化が避けられない。
そこで、一定の料金帯に特化する必要性がある。いわゆる価格セグメントといえる。さらに、「売りやすい価格帯」に特化したうえで、運営オペレーションをセグメントに合わせて変更することが欠かせない。両者をバランスよく設計することで、より大きなGOPが確保できる
このことを概念的にイメージ化したのが左下の図だ。2つの図のうち冗談は、GOPは高いが市場性を考えると売り難い「高額」、市場の価格帯にマッチした「値ごろ感」、うりやすいがGOPの出ない「低額」の3区分で合計「100」の販売を仮定した場合、黒マス(仮想GOP)は「20」だ。これに対して下段は、値ごろ感のある売りやすい価格帯に特化し、併せて運営システムを価格帯に見合ったものに変更した。また、システム的にロスの出ない程度の割合で、目玉商品的に低価帯を加えた2区分とした場合、合計「98」で若干の減少をみるが、黒マスは一気に「35」拡大する。
これを、このまま実際の経営にオーバーラップさせることはできないが、売りやすさによる販売強化(分母の拡大=ニーズに対するマッチング)と、運営システムの変更(ローコスト化=当社の『経営名人―接客編』〔旧・配膳システム〕の相乗効果によって、こうしたGOPの向上は実際にあり得る。鉄則4の前段としてこの点を強調しておきたい。
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