鉄則3(補足)は、棲み分けを一歩進めて自館のセグメントを明確にすること。
旅館が自らオープンマーケットに打ち出して集客できるブランド力は、平均的にみると稼働率に換算して40%程度だろう。一方、健全経営をするための稼働率は70%がベストだ。そこで、不足分の30%を埋めるために、「ブランド力+商品力」としてさまざまな企画商品を造成している。その造成の1手法として価格の引き下げなどが行われている。
現実問題として捉えば、A館で「2万円→1万5000円」の商品を造成すれば、それまで1万5000円だったB館は、それ以下に引き下げなければ競争原理が動かない。さらに、それ以下の価格帯の旅館へと連鎖していく。この構図は、立地する域内にとどまらず、地域間競争へと拡大し、最終的には全国規模の価格競争へと連鎖する。いわば、バブル経営の破壊後に経験した価格破壊の悪循環スパイラルがこれだった。
ひるがえって旅館は、この経験を踏まえて現在にどう対処しているのだろうか。端的にいえることは、現下の厳しい状況のなかで実績をのばしている旅館は、バブル期と異なるマネジメントに早い段階で転換していた。一言で言えば「発想の転換」をしている。その筆頭がGOP重視の発想だ。バブル期のように売上が右肩上がりで高ければ、多少余分に付加価値をつけてもGOPは相応に確保できるし、付加価値がさらに客を招きこむ相乗効果を生んでいた。そうした時代のGOPに関していえば、確保しようと意識しなくても「残っていた」という状況だったのだろう
20〜30%どころか40%といった話さえ耳にしている。ところが現在は、10%でさえ汲々としている旅館が大半を占めているが、いち早く発想の転換をなし得た旅館は、20〜25%を確保できている。
この発想の転換を促した背景を振り返ってみよう。バブル期は、お客のセグメントに対して多くの旅館が大雑把だった。極論すれば「10人10色」どころか「100人100色」にも対応する品揃えしていた。そうした従前のマネジメントが現在に及ぼす問題は、その時代の「100色」の品揃えを引きずっていることにある。もちろん、品揃えとは企画商品のことではなく、料理や接遇などの内容(質と仕組み)のことだ。
たとえば、パレートの法則(8対2)で考えれば、10の要素のうち大多数が必要とするのは2であって、残りの8は稀に必要とされる要素だ。余談だが、すし屋でこんな体験をしたことがある。日本橋の老舗店では、客が「ネギトロ」といったところ、板前が「うちは置いてないと」にべもなく突っぱねた。逆に早くて安いが売りの回転寿司で「大トロ」と言った客には「高級な店へどうぞ」と嫌味たっぷりに言い返した。どちらも自社のグレードを守っており、グレードにふさわしい「2」の要素でセグメントしている。同様に、かつてデパート最上階のていばんだった何でもありの「お好み食堂」が、最近はめっきり減って、老舗の専門店が覇を競い合っている。中途半端な「100色」で「100人」を取り込む発想から、「20色」で「80人」を取り込む発想への転換が必要だろう。
いずれにしても、GOP先行の発想が求められているし、GOPを上げられなければ、その先の選択肢は限られてくる。そして、適切なマネジメントツール(たとえばGOP名人)があれば、売り易いセグメント(左図)で、従前よりGOPをアップさせることは可能だ。
|