「求める理想は実現する」その83
地域内での差別化と温泉地力
Press release
  2008.02.09/観光経済新聞

 鉄則2。温泉地内の他館との差別化。
同一温泉地内のA館、B館……の施設内容をみたとき、A館は多様な価格帯に対応する施設展開の大型館、B館は中心価格帯が8千円〜1万円相当の中小旅館だったとしよう。そうした中でA館の1万円に相当する価格帯が8千円に引き下げられれば、B館は施設内容の面で勝ち目がない

B館は価格設定の見直を迫られる。
一方、A館のそうした価格政策は、売上不足が大きな要因となっている。だが、この要因はA館個別というよりも、温泉地としての根本的な問題が潜んでいる。煎じ詰めれば、以前は温泉地全体のキャパシティに対して70%の入り込みがあったが、現在は40%に落ちている実情だ。温泉地全体としての30%減は、イコールA館の稼働率30%減といえないまでも、不足分をB館のシェア奪取で補う価格政策を生んでいるのは確かだ。ちなみに、構造改革の視点で捉えた旅館の稼働率は、70%がベストと言える(詳しくは拙著『財務解析・売り方で旅館が変る』観光経済新聞社刊)。

視点を変えてみよう。地域の代表的な大型旅館は、元来が幅広い層に対応可能な施設展開をしており、3万円超から1万円台まで受け入れられる。車に例えると、高級車から大衆車まで品揃えしており、さらに最近では軽クラスにまで広げてきた。また、大型館は不動産業として相応の体力もある。では、軽クラスを主な客層にしてきた旅館は、淘汰の波に成す術もなく呑まれるのか――。個々の旅館が厳しい冬の時代を生き抜くため、あるいは市場原理と言えばそれまでだが、そうした状況は長期的視座に立てば大型館にも決してプラスには働かない。
というのも、温泉地に立地する個々の旅館は、まさしく独立した企業であり、地域内での競合関係にある。だが、1温泉1館といった特殊条件を除けば、温泉地そのものが他の温泉地と競合し、客を争奪しあう「軍団」であり、域内の個々の旅館は軍団を構成する一員なのだ。
 そこでキーワードの1つは、これまでに再三指摘してきた温泉地力だ。温泉地力とは、言葉を換えれば温泉地にみなぎる「活況」あるいは「賑い」とも言える。なぜなら、日本人にとって温泉浴はナショナルパスタイムであり、多くの人々が和気藹々と集うことで生じる癒しの相互作用、それによる満足を共感するがゆえに国民的娯楽といえる。そして、多くの一般的な客を呼び込んで「活況スパイラル」(下図)を創出するには、幅広い価格セグメントへの対応がカギといえる 高額客の隠れ家的な静寂が特色といえる温泉地もあるが、それらは例外といってもいい。
余談だが、鄙びた温泉地にもそれなりの活況がある。当然ながらキャパシティの関係で、都会的華美やエキサイティングな娯楽はないが、客同士が交わす挨拶や地元の人との触れ合いなど、伝統的な湯治場の風情がそこでの活況をかもし出している。これも温泉地力の1つといえよう。
したがって、鉄則2の差別化とは、旅館個々がGOPを度外視して取組む小手先の施策ではない。多様な旅館群によって温泉地力を高め、他の地域とわたり合える軍団形成のために、各館が特色を打ち出すことがといえる。言い換えれば、GOPを基本に価格セグメントにあったオペレーションを、各館で構築することが差別化の第一歩なのだ。さらに言えば、1館でも多様な価格セグメントへの対応は可能だが、そこでのオペレーションは高度なものが求められる。これに対し個々が絞り込んだ特色の総和としての温泉地力を発揮する方向は、現実的であり実効力も高いはずだ。その前提として、提供するサービス内容を適正に捉え、業界としての価格設定に向けた「標準ガイドライン」の策定が求められる。

(つづく)

  質問箱へ