鉄則その1。各温泉地は入込み客の価格セグメント解析をする必要がある。
かつて、旅館はお客の価格セグメントを強引に既定してきた。歪な形でコントロールしてきたといってもいい。現在は、団体からコマへに象徴される旅行形態の変化が定着した。いわば、旅館が強引にセグメントを決められなくなった
裏返すと、価格セグメントがきわめて多様になってきた。温泉地のノーマルなセグメント構成を想定してみる必要がある。
数学の教科書にある記述問題的に例えると、以下のようなことがいえる。仮に全国の温泉地への旅行全体を捉えて、1泊宿泊料3万円台が需要全体の2%だとした場合、1つの温泉地入り込み全体の2%が3万円台だとは限らない。県内に20の温泉地があったとして、そのうちの1温泉が県内の2%を占有して、他の温泉地は0%というケースもあり得る。この構図は、日本全体対県、県対個別温泉地にもあてはまる。
さらに言えば、1県の宿泊観光入りこみの全体を100として、これを20の温泉宿泊地が分け合ったとしよう。単純に按分すれば1温泉地につき5となるが、現実には温泉地力の差によって、20を占める温泉地、1にも満たない温泉地という違いが表れている。このときに、20と1で「どちらが優位」という評価は単純に下せない。20であっても宿泊施設のキャパシティがそれを上回っていれば、当然ながら個々の施設経営は厳しい。逆に、1であってもキャパシティに対して妥当であり、しかも県内需要全体で2%しかない3万円台の半分を吸収しているとすれば、20対1であっても1しか吸引していない温泉地の方が経営的に優位だということになる。
理屈はともかく、価格セグメントと実勢のギャップを考えることにしよう。ある温泉地の入り込みを価格帯セグメントとして分析したもの(下図左側)と、その温泉地の各館が設定している価格帯(1泊2食)の総和(下図右側)を比較すると、以下のことがいえる。
分析では、8千円から1万5千円の価格帯が全体の55%を占めており、各館の価格設定でも同価格帯が58%で、大きな食い違いはない。ところが、分析した実勢と設定のギャップ(斜線部分)が相当に目立つ。約半分を設定した価格帯よりも下回る価格で販売していることになる。もとより、設定価格は不動産部門(室料)と料飲部門(料理)、それに接遇サービスなどの諸費用と利益を勘案したうえで算出されているわけだが、料理原価や接遇人件費などは、ギャップの有無にかかわらず支出される。そうなると、本シリーズで再三指摘してきたように不動産部門が、まったく利益を生んでいないことになる。GOPも適正に確保できていない。
一方、現実的に捉えるならば、既存のハード(不動産)について設定係数をいじることは、ないものネダリの空論に終わる。したがって、料理や接遇のあり方を工夫しない限り、ここから利益は導き出せない。
そこに、個々の旅館と地域(温泉地力)の両面から、新たな発想によるマネジメントの必要性がある。また、価格設定の基準(根拠)となる指針なくしては、独りよがりで消費者に受け入れられないのも必定だ。
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