「求める理想は実現する」その78
「温泉=ニーズに対応」省みる
Press release
  2007.12.08/観光経済新聞

 これまで5回にわたって概略を記してきた「旅館版ユニフォームシステム」や料金設定の「標準ガイドライン」は、最終的にはGOPアップや健全経営を目指すマネジメントシステムだが、現状のマネジメントを是正することが発想の根底にある。まず、現状の売り方を大づかみに振り返ってみよう

 景気変動が起きる前に比べて今日の売上は、インセンティブなどの団体旅行が20〜30%減少したのに対して、サイバーエージェントが個人や小グループへの訴求で10%ぐらいの穴埋め効果で貢献している。サイバーエージェントは、この10年ほどの短期間で拡大してきたのは確かだが、未知数といえる部分も多くあって過剰な期待は禁物だろう。しかし、それに代わる販促手段を現状で得ることは難しい。そこで手段ではなくコンテンツ(訴求内容)を見直さなければならないことになる。一言でいえば「自社企画」を、いかに充実させるかが大きな課題となっている。
 そのためには、マーケットにおける訴求対象を絞り込み、そのセグメントにふさわしい内容の企画を打ち出すことが欠かせない。そうした自前の企画は、結果として販売での直間比率の是正にもつながる。ただし、企画を前提に販売シミュレーションをするだけでは、「何々だったら」「何々をすれば」といった「たら・れば」の理想論に陥りがちなのも否定できない。というのも、これまでの多くの企画は、漠然としたニーズに迎合しようとする姿勢が否めなかったからだ。肝心なことは、現実にある手持ちのシーズ(提供可能な素材)を精査した上で、GOPアップを念頭に置きながら、実態に即したムリのない企画を訴求することにほかならない。
 本論からは多少の回り道になるが、ニーズとシーズの関係を考えておきたい。極めてシンプルにいえば、都市ホテルやビジネスホテルは、地域人口や地域の企業数をはじめ、外部からの流入人口をシミュレーションしたうえで、施設のキャパシティや客層にあったグレードを設定する。いわゆるアセスメント(評価や査定)を確実に行った上で、施設を計画しており、ニーズを前提にシーズを組み立てているともいえる。
 一方、温泉地の旅館は、アセスメントではなく「温泉ありき」がスタートポジションだった。その温泉地が入湯客を「何人呼び込めるのか」などは、あまり拘泥していない。というのも、日本人にとって「温泉浴」あるいは「温泉旅行」は、これまでにも指摘したように、いわばナショナルパスタイム(国民的娯楽)として親しまれてきたからだ。したがって、温泉地に立地する多くの旅館は多少乱暴にいえば「温泉=ニーズに対応」という漠然とした前提の下で、旅館を建てれば「利用客はある」と結論付けてきた。その背景の一端と言えそうなのが、江戸時代の庶民の間で「一夜湯治」といった言葉があったように、温泉そのもののポテンシャル(例えば効能など)を生かした滞在型の湯治だけでなく、今日の温泉旅行に通じる歓楽的な温泉の楽しみ方を、日本人は長く続けてきた。それに合わせる形で、旅館は自らニーズを創出してきたともいえる。
 だが、そうした発想の下では、勝ち抜くための当然の結果として施設・料理・サービスなどの面で、絶えず他に先んじた展開が不可欠となる。しかし、そうした展開は多くの場合に経営を圧迫するジレンマを生じさせる。ニーズ・シーズ・GOPの3点から新たな発想が求められる理由がそこにある。

(つづく)

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