求める理想は実現する その77
経営数字のメッセージを読む

Press release
  2007.12.01/観光経済新聞

 料金設定の「標準ガイドライン」の必要性については、「何を、どこまで提供しているか」を明確にすることで、対外的な説明責任と対内的な経営実態の把握につながる点を指摘した。言い換えれば、前者は営業戦略、後者は経営戦略の基幹的な指標になり得るという意味にもなる。
 いま、旅館経営で求められるのは、適正なGOPを確保しながら経営を健全に持続、発展させることにほかならない。また、本稿72回で「旅館版ユニフォームシステム」について記したが、その中で欧米のホテルユニフォームシステム(統一会計基準)を真似ただけでは、旅館の経営風土に馴染まない点として、責任と権限の曖昧さを指摘した。逆に事業執行責任を明確にすすることで、各部署のプロフィットを的確に把握し、さらに次の一手を講じていく仕組みが「旅館版ユニフォームシステム」だと位置づけた。
 そして、経営の細部にまで整合性をもたせる仕組みとして「旅館版ユニフォームシステム」と「標準ガイドライン」の併用を提唱することにした。俗な喩えをしてみよう。

      A+B=C

 この単純計算で、Aが仕入原価(初期投資を含む)や運営経費の合計、Bが利益であって、それらを加算してCの売価を設定するのが常道だ。
若干横道にそれるが、私たちは幼少のころから、「7+5=」という問いに対して「12」と回答するような計算方法を学んできた。ところが「12」になるのは、「9+3」や「8+4」など何通りもある。現実に照らせば、 原価が「7」で確保したい利益が「5」であるために、売価を「12」に設定したいのだが、「12」では販売しにくく「10」とするために、原価や利益を下げる対応を工夫している。その工夫が「商売人の計算」といえなくもないが、どのような計算をしようとも商売である以上は適正な利益が上がっていなければならない。

 さて、分かりきったことを述べてきたのだが、実はここに問題の根源がある。「7」や「5」の根拠を正確に把握しているか否かだ。経営者であれば、さまざまな経営数字を把握しているのは当然だが、把握しているだけでは十分ではない。数字が秘めているメッセージを読み取らなければ、現状の適正な把握も次の一手も講じられない。
 例えば、私の提唱する旅館の構造改革では、イニシャルコストや日々の仕入原価だけでなく、運営に潜む「ムリ・ムラ・ムダ」を洗い直すことで、適正な要員数や配置を行って人件費や諸経費の削減を図ってきた。こうすることで原価の「7」が「6」になり、利益の「5」と足して競争力のある売価「11」を可能にすることや、あるいはブランド力などから「12」の売価を維持できれば、利益を「6」に増大させることも可能だった。それが、数字に秘められたメッセージであり、GOPの確保と拡大の構図といってもいい。
 ところが、そうした手法だけでは立ち行かない現実も一方にはある。それが旅館の古くからある経営風土といってもいい数字把握の方法だ。第73回の図表を思いこしてほしい。ホテルに限ったことではないが、一般にはニーズがあってそれに対応した商品をつくり上げる。旅館の場合、日本人のナショナルパスタイム(国民的娯楽)的な「温泉」が伝統と文化のイメージと直結して「旅館志向」といった需要を創出している。このため投資に際しての事前のアセスメント(評価や査定)が曖昧なケースが多い。いわば、抽象的な意味でのニーズから計画がスターとしている。
そうしたニーズとアセスメントに対する問題は別の機会に譲りたい。というのも、原則論ではなく、すでに運営されている目の前の現実に対処することが急務だからだ。そこで、営業戦略と経営戦略の数字的な論拠となる料金設定の「標準ガイドライン」と、それらを生かすための「旅館版ユニフォームシステム」が必要となる。その 両者を相関させることでGOPの実態もみえてくる。

(つづく)

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