料金設定の「標準ガイドライン」を必要とする大きな理由は3つある。第1は経営計画を策定する際の数値根拠としての意味がある。設定価格に適正な根拠がなければ、同等の品質グレードの他館に比べて高すぎて販売面で苦戦を強いられる場合もあれば、逆に低いためにGOPを確保できないケースも出てくる。前回指摘した手間工賃式の発想方法では単価が高ければとりあえず利益を確保できるが、逆に低いと原価率を高くしてGOPが得られないかあるいは低く抑えて商品としての魅力を損なうことになる。どちらにしても経営が厳しくなる。つまり、経営計画が絵に描いた餅に終わってしまう。
第2は、消費者に対する妥当性のアピールだ。提供する商品の価格について「説明責任」のようなものだといえる。例えば、自動車の標準装備に対して、カーナビやオーディオをグレードアップしたりレザーシートに変更すれば、当然ながら価格がアップする。だが、そうした価格に不満を表す購入者はいない。個々の価格が明確で積算した最終価格の妥当性を理解できるからだ。ところが、旅館の価格は、別注料理や飲料を除けば、最初から積算した最終価格のようなものを提示している。それが「1泊2食」の形だ。
これら2点は、いわば個別の旅館にかかわる問題だが、3点目は旅館業としての観点から求められる必要性といえる。具体的には、業界標準に照らしてハード面がどういった状況にあり、ソフト面としての接遇や料理をどう提供しているかなどを、業界共通のモノサシで判断しようとするものだ。それらをもとに自館の投資原価、立地条件などを勘案して、個々が販売単価を設定することになる。視点を換えると、同質の条件で販売している他館の価格に対して、自館の価格が適正化どうかを判断する材料にもなる。もっとも、他館の様子を睨みながら料金設定をする手法は、これまでも少なからず行われてきた。ただし、従前のものと決定的に異なるのは、対比する項目がまちまちであったり、評価の方法が主観的だった点を改めていることだ。
例えば、何百かの項目について「YES・NO」をチェックするだけでも一定の目安になる。さらに、項目ごとの重要度によって過重評価を行うことで、より具体性が増してくる。計算し易いように100項目を想定して、基礎項目は1項目100円と仮定し、重要度Aは過重評価2、重要度Bは過重評価3だとする。
仮に80項目がYESなら8000円になるが、そのうちAが20項目、Bが10項目含まれていると以下のような計算が成り立つ。
基礎=(80−20−10)×100で5000円
A=20×100×2で4000円
B=10×100×3で3000円
合計=12000円
実際にはこれほど単純な計算ではないが、こうした手法によって標準ガイドラインを弾き出すことは可能だ。そこに個々の実情を反映させれば、第1・2の必要性に対応することができる。
チェック項目の詳細は次回以降に記すが、基本的な考え方は4カテゴリーに分類し、それぞれに詳細な項目を設定する。4カテゴリーとは、@全館A客室B飲食C大浴場――とし、ハードや提供するサービス品質を評価していくことになる。
こうした発想がこれまで具体化しなかった最大のネックは、旅館の客室がホテルのように均一化されていなかったところにある。しかし、料金設定の「標準ガイドライン」の手法は、極論をいえば客室の一つひとつについて適正価格を算出することができる。その総和として全館規模の詳細な売上予算を策定することも可能となる。飛躍が許されるならば、価格の透明性を業界としてアピールすることにもつながるはずだ。また、あくまでも指針であって、最終的な決定は各館に委ねられていることから、カルテルや談合などの不正を意図としたものでもない。さらに、消費者にとっても選択基準として受け入れられよう。
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