前回、「1+1=2」が成り立つ大原則として「10進法」を喩えてみた。さらに考えなければならないのは、この10進法が成り立つ原則だ。原則というよりも条件と言った方が分かり易いかもしれない。その条件とは、極めて単純なことなのだが、誰もが10進法の意味を認識し共有していることにほかならない。この「認識の共有」がないと、解釈が1人ひとりバラバラでコミュニケーションが成り立たない。しばしば用いられるコンセンサスも、おおむねこれと同義に解していいだろう。認識を共有することでさまざまなメリットがある。その1つが客観性だ。誰か1人ではなく、全員が納得のできる土俵になる。同時に、仕事に対する責任の範疇も明確になる。例えば、仕事をすることは成果を生み出すことであり、成果がなければ仕事をしたことにはならない。その成果が責任に照らして客観的に評価されれば、誰もが納得するだけでなくモチベーションも高まる。
こうした客観的判断の手法として、旅館版のユニフォームシステムを考えてみたい。このシステムは、欧米で一般化しているホテル会計統一基準(Uniform
System of Accounts for The Lodging Industry)をベースにして、旅館での応用を考えたものだ。あえて「旅館版」としたのは、実は欧米のホテルと日本の旅館では、宿泊産業として共通していても実態は「似て非なるもの」であるために、欧米版をトレースするだけでは旅館の実態に馴染まない。「ユニフォームシステム」と呼ぶのはあくまでも便宜上のことであって、ユニフォームの語義である「統一」という点に注目してほしい。
というのも、ユニフォームシステムそのものは、過去にも日本で紹介され、ホテルを中心に旅館でも採用するケースがあった。ところが、現在でもあまり普及していないのは、その結果への評価が低いためだと推測できる。本題に入る前にそのあたりを検証しておきたい。
日本の宿泊産業でこのシステムが根付かない背景には、責任と権限が曖昧な日本的経営風土が大きく作用していたともいえる。前回「初めに仕組みありき」ではないと記したのは、欧米の経営風土が生み出したシステムを鵜呑みにすることではない、という意味でもあった。
本コラムの前シリーズで、ビジネスヒエラルキーに言及したことがある。ビジネスヒエラルキーとは、企業の最上位概念である経営理念から現場の日常業務までを、6つのレイヤー(階層)で縦断的に捉える発想だ。6階層とは、@経営理念A目標B戦略C計画D管理E業務であり、仮に経営上の問題があるとすればどの部分に潜んでいるかを洗い出し、それを是正することになる。多くの場合、経営理念が常套語の羅列で個性がない、目標に
具体性が欠けている、戦略を小手先の手法と勘違いしている、管理が杜撰である、業務の仕組みをおろそかにしている――といった現実が、ごく当たり前にはびこっている点を指摘した。
また、そうした状況が生じる要因として、経営責任と事業執行責任に対する曖昧さがある。私がその打開策として提唱したのは、いわゆる「執行役員制」だった。商法で定義する取締役会とは、@業務執行の意思決定A取締役の職務執行の監督、この2つだ。ところが多くの旅館では、「取締役○○部長」といった形で実際の業務をそれぞれが抱えている。それ自体が問題だとはいわないが、監督とプレイヤーを両立させるのは難しい。
つまり、これから提唱しようとしている旅館ユニフォームシステムは、事業執行責任を明確にすすることで、各部署のプロフィットを的確に把握し、さらに次の一手を講じていく仕組みと理解してほしい。
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