「求める理想は実現する」 その71
GOP根幹の「仕組み」を考える

Press release
  2007.10.20/観光経済新聞

 旅館の構造改革を推進するために開発した近代経営ツールについて、その活用度合いが経営者の資質によって左右されるとの観点から、それぞれの経営者像を私なりに捉えて解析してきた。もとより、精神分析の専門家ではないので、私が接した実際の言動からトレースしたものであり、人物のコアまで掘り下げきっているとは思わない。肝心なことは結果として営業総利益であるGOP(Gross Operating Profit)を高めて、経営する旅館の維持と発展につなげているか否かという点にあり、それを見定めてきたつもりだ。
  なぜならば、近代経営ツールは所詮道具であって、どんな利器でも使い方を誤れば利点を生かすことができない。私の好きな車に喩えるならば、本来の使用目的である移動手段の域を超えて、思索にふける空間やプレジャー目的で利用される場合もれば、使い方を誤れば走る凶器にさえなってしまう。そうした意味から近代経営ツールについて、単なる活用の域を超えて新たな使い道を見出している経営者像も紹介してきた。
 経営ツールを生かす上では、経営者の資質が大きな意味をもっていたわけだが、同時に経営の仕組みが重要な役割を果たしている。いわば、両者が車の両輪として機能しなければならない。そこで、今回からマネジメントシステムを検証してみる。
  ◇    ◇    ◇
 旅館のマネジメントシステムとしては、これまでもさまざまな視点から論じられてきたが、究極はプロフィット(利益)を上げて経営を維持することに尽きる。どんなに理想を語っても、生活が維持できなければ生きていけないのと同じだ。人間は「よりよく生きる」ために努力を続けるのであって、企業もそれと何ら変わらない。最近のメタボリックではないが、肥満は人間の健康にとって悪影響を及ぼす。だが、分かっていてもなかなか改善できない。個人の問題として意思の弱さなどが指摘されるが、果たして個人だけの問題なのかという疑問もある。

 その1つとして、愛煙家の私としては、あまり触れたくないテーマに禁煙や受動喫煙の問題がある。喫煙の是非は個人の健康の問題であり、仮に肺ガンになっても苦しむのは当人にほかならない。だが、受動喫煙が第三者にとっても遠因になるといわれれば、反論は難しい。少なくとも、拒む人間の前では可能な限り我慢をする。また、病気にかかって苦しむのは確かに私だが家族や周囲にも少なからぬ迷惑がかかる。つまり、個人に帰結すると思える問題であっても、他者とのかかわりを抜きでは考えられないケースが多い。むしろ、他とのかかわりのない問題の方が少ないぐらいだと言ってもいい。いい換えれば、何事についても仕組みを考えなければ解決できない問題が、実に多いということだ。
 また、前回まで検証してきた経営者の資質についても、仕組みによって輝きを増すか、はたまた埋もれてしまうかの分かれ道がある。この「仕組み」をどう捉えるかが肝心だ。例えば、200室の旅館と20室の旅館では、人員の配置も運用の仕方も違うのが当然で、単に10対1の関係でないのは、改めて述べるまでもない。「初めに仕組みありき」で、何でもそこにあてはめればいい分けではない。そうした場合の「仕組み」は、いわば対症療法のような「手段」としての仕組みであって、疾病原因が異なれば効果は期待できない。いま、テーマにあげようとしている仕組みは、手段としての仕組みではなく、根源的な仕組みについてである。算数の問題で「1+1=」は「2」といった場合に、私たちは最初に何を学んだかを思い起こしてほしい。数として「1」の意味を覚え、次に「+」が「加えること」だと学んだ。いわば「1+1=2」は、数の増加を把握する手段としての仕組みだったが、それを成り立たせる大原則としての仕組みがその背後にあった。それが「10進法」という仕組みなのだ。この仕組みが変わると、例えば「2進法」ならば「1+1=10」になってしまう。
 まわりくどい言い方になってしまったが、今回はそうした大原則ともいうべき仕組みをテーマにしたい。

(つづく)

  質問箱へ