これまでに紹介してきた6氏は、大半が同業者のもとで私の提唱する近代経営ツールの導入例を体感し、それから私にオファーしてきた。その中の一人がいった。「当館が今後も発展していくためには、料飲部門を充実させなければならないが、そのためにはコストとの兼ね合いがある。それが頭の痛くなる最大の要因だった」と。そこで他館の導入例を見学し、「これが回答だ」と実感して私が呼ばれた。そうした場合、招請の原点は立地条件や経営規模、なによりも経営者の資質によってそれぞれ違っていた。そこで、僭越とは思いながらも6氏の経営者像を書き続けてきたわけだ。
これら6氏は、サブタイトルを「近代経営ツールを生かす経営者像」としたように、経営を補完するツールの機能を十分に活用して狙いどおりの成果を手中にしている。いわば、勝ち組の経営者といっていい。各氏の経営者像からみえてくる共通項を、改めて整理してみた。
経営のやり方はいろいろだが、6氏に共通するのはGOP(償却前利払い前利益=粗利益)の意識が高いということだ。もちろん、経営者であれば誰しもGOPを追い求めている。だが、多くの経営者にみられることは、思いはあっても具体化をするときの着眼点や発想力に欠けているのが否めない点だ。これが気薄だと、過去の経験則から抜けられなかったり、目先の現象のみを泥縄で対処すことになってしまい、結果として悪循環スパイラルに落ち込んでしまう。
思いを行動に移すときの発想の原点には、同根ともいえる2つの前提がある。その1つは「旅館は不動産業」というものであり、もう1つが客単価は「大工の手間工賃」のようなものだということ。不動産業としてみた旅館は、今日の空室からは1円の利益も得られないことに象徴できる。一方、大工の手間工賃は、個々の技術料レートを基にした日々の工賃の積み重ねが、1物件にかかわる総額として計算される。働かない日は1円にもならないのは、旅館の空室と同じだ。
そうなると旅館は、不動産業の観点から泊食分離をしたうえで、手間工賃の技術レートに相当する品質グレードやCSを高めることで、単価アップに努めながら日々の積み重ねを図っていく構図が不可欠となる。こうした喩えをあげると「確かにそうだ」という。あるいは、先代から聞いていたという二代目もいた。これまで紹介してきた6氏は、その部分を明確に意識した上で、それを実現させるための道具として近代経営ツールを採用した。
旅館経営者は、なぜGOPにこだわるのか。6氏に共通するのは、言葉の表現こそ異なるが要は「自分のしたいことを実現するため」ということになる。では、何をしたいのか。突き詰めていけば、旅館の文化を追求してブランド力を高めていくことにほかならない。これは6氏に限ったことではないが、そこに至る道程に経営者資質が表れている。6氏の詳細はこれまでに記してきたとおりだが、集約すれば「客単価を維持しないと、やりたいことができない」ということであり、そこに「GOPと不動産業と大工の手間賃」が3大話のようにからみ合っている。
それは、不動産部門と料飲部門との兼ね合いともいえる。極論すれば、料飲部門に対する取り組みがしっかりしていないと、不動産業としての室料が弾き出せないことにもなる。そこで、こうしたシステムにある程度は頼らないとやっていけないという冒頭の話しになる。いわば、ツールをうまく使いこなすか否かが、成功と失敗の分かれ目にもなるわけだ。
これまで記してきた6氏は、ともに旅館の文化やブランド力に対して、きわめて高い関心をもっているが、その前提にGOPを据えている。換言すると、GOPを高く維持できなければ、旅館文化を唱えても絵に描いた餅と同じで空論になってしまうことを熟知している。私流にいえば「1+1」の計算ができなければ、2ケタ、3ケタの高度な計算はでいないということを、それぞれの発想方法で確実に把握し実践してきたといっていい。そこに1つのカギがある。
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