「求める理想は実現する」その55
GOP25%で投資を繰り返す
Press release
  2007.06.23/観光経済新聞

 経営者像を分類した私のファイルに、新しい人物像として「B氏タイプ」が加わった。一言でいえば、自分に厳しい目標を課すタイプといえる。
さて、話を戻そう。私は、1回目のプレゼンで近代経営ツールが採用される感触を得た。それはB氏の意向でもあった。だが、導入の話が現場レベルに落とされると、足踏み状態が続いた。そんなとき経営幹部が、ふと漏らした。
「うちの悪いところは、すべて社長の采配であり、現場はそれを受けとめるだけなのです」という。
私は〈おや、何をいっているのだろう〉と思った。社長や本社が勝手に決めたことで、自分たちには〈よくわからない〉といっているのに等しい。これは、現場が社長の意向に対してネガティブなことを自身で暴露しているのに等しい。まさに「親の心、子知らず」なのだ。というのもB氏は、自身が60歳になったときには、経営を後継者に委ねる絵図面を描いていた。その体制を固めるために自身に厳しく、すべての面で采配を振るっているのだった。
やがて予備調査の段階になった。ここで、私はB氏の人物像を、さらに深く知ることになる。その1つは、すし屋で話しているときだった。私は、旅館をとりまく昨今の動向を話す中でGOPに触れた

 「健全な旅館では15%ぐらいのGOPを確保しているが、そうした旅館は3分の1ほどで、残りは銀行融資も受けられない状況になっている」
B氏は「15%…」といって首をかしげた。束の間、計算したようだ。
「うちは25%あげているよ」と、サラリといってのけた。「それぐらい上げておかなければ何もできないじゃないの」とつけ加えた。やはり只者ではない。
指導会議でも意外な一面をみた。私の行う指導会議は、部署ごとと全体の2本立てになっている 全体会議の前日、部署別に1〜2時間にわたって指摘と指導をする。それを踏まえた全体会議には、各部署の責任者と経営者が出席する。ある日の全体会議で私は、「食器洗い場での食器管理が悪い」と指摘した。するとB氏は「調理長、どういうことだ。きちんと説明しろ」と一喝する。それこそ軍隊口調で社員を扱っている。一事が万事この調子で、現場スタッフは緊張でビリビリしている。これも、B氏流の管理テクニックなのだ。
余談だが、指導会議でこうした指摘をするのは、是々非々で現場に風穴を開けて現状を変えることと、経営者の目に映っていなかった現状を知ってもらうためだ。当然ながら、スタッフに対する経営者の評価にもつながる。

アグレッシブな経営は、どこの旅館にも必要だ。それを計算高いとすれば、B氏にもそれがある。レンタル業者が制服を売り込みに訪れたときのことだ。B氏は、それを採用したのだが、その際に制服の購入代やクリーニング代とレンタル料を比較しただけではない。採用後にレンタル業者へ逆に営業をかけて、大型の慰安旅行を獲得した。もちろん、日々の経営でも、単純な1泊2食販売のほか、到着後の館内消費を拡大させるさまざまな手法を講じている。
高いGOPと軍隊口調の管理には、B氏独特のリレーションがある。例えば、「奥座敷」の近隣で別の旅館を立ち上げたときのことだ。近くの系列館から人材を派遣すれば、当座の対応はできる だが、B氏はそれをしなかった。結果として新しい旅館は、人材を含めて条件は厳しい。だが、そうした状況下でも系列館を「追い越す」といい切り、決して泣きを入れない。同時に、前からの系列館スタッフには、人材育成を含めて「ここまで、よく頑張ってきた」と評価も与える。時宜を得た評価で人心も掌握しているのだ。
攻めるだけでなく、攻めるときの自分の足場を的確に判断する確かな力が、B氏にはあった。私は山が好きだ。山登りでは、天候の変化などで「遭難するかな」と懸念が湧いたとき、そこから先へは絶対に進まないのが鉄則だ。アグレッシブであることは、足場を見極められる力のもとで成果を発揮する。それがB氏の人物像でもあった。

(つづく)

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