「求める理想は実現する」 その47
目標を左右する経営者の資質

Press release
  2007.04.21/観光経済新聞

 前回の「任せる」について補足をしておきたい。経営者には「逃避型」と「回避型」の2つのパターンがあると、私は考えている。
経営者が自身を省みたときに、「卓越した能力こそなかったが、高度成長の波に乗る形で何とかやれてきた。ここらで後継者に委ねたい」という経営者は、前者の「逃避パターン」といえる。こうした旅館は、経営者が過去の右肩上がりという時代背景もあったが、経営リソース(ヒト・モノ・カネ)を自身の判断で動かす相応の苦労を積み重ねてきたことから、現状の経営面でもある程度の成功を収めている旅館によく見受けられるパターンともいえる。

一方の「回避パターン」は、同じような時代背景を背負いながら、俗にいう「それ行け・やれ行け」の闇雲な拡張路線で、結果として大きな負債を抱えている旅館の経営者に見られるパターンだ。そうした旅館の経営者は「借金が多いから、この状態で後継者に委ねるのは時期尚早」という。実際にこうした言動をする経営者にも多く出あった。そうした旅館では、社長・専務(妻)・常務(後継者)の「トロイカ体制」がみられる。そこでの問題点は、後継者の育成意識が欠落していることだ。実際の後継者をみると、常務時代が長く続いて社長職を受け継ぐのが50代以降になってしまう。その間に何をやってきたかといえば、経営者としての帝王学(マネジメント)ではない。「父の背中を見て学ぶ」といえば聞こえはいいが、いわゆる現場体験と現場レベルでの問題対処であって、経営者に欠かせない俯瞰的な経営視座が育っていないのだ。
これに対して、誰がみても成功している勝ち組旅館の経営者には、逃避でもなく回避でもない「正統派」といった3番目のタイプが存在する。本来は、これを第1のパターンとして掲げたいところだが、実際にはごく限られた存在であることから、3番目にしかあげられない。ある意味で業界の実情を物語っているようでもあり、厳しい現実を感じる。
この正統派というのは、自身の感性をさまざまなシチュエーションで発揮させているタイプだ。いい換えれば、自身の着眼点・行動力・思考力・洞察力を必要なシチュエーションで適正に発動させて「目標設定」を行い、その達成に向けた努力を重ねている。これは、本シリーズ導入部で示した9つの経営者資質に照らすと、(3)計画性、(4)目標設定、(5)着眼点・行動力・思考力・洞察力の3項目に合致した資質を備えていることになる。

こうしたパターンを車に例えてみよう。大衆車でも高級車でも「移動手段」としての機能面は共に備えており、車の目的である「移動すること」は、どちらでも達成できる。これを経営に当てはめてみると、経営目的の「利益を出す」という点で、「当座の利益が出ている」といった現状で満足するか「それ以上を目指すか」という違いに似ている。移動中の居住性といったクオリティに対する感性の有無といってもいい。移動機能のみの大衆車、機能にクオリティを加えた高級車、どちらを運転したいかという選択は、オーナードライバーの感性に委ねられている。
これを時系列的に捉えると、「今は機能のみでとりあえず突っ走るが、いずれはクオリティも満たす」といったプロセスの描き方の有無といってもいい。目標設定の背後に当座だけではない俯瞰的なプロセスへの意識や認識がなければ、大衆車から高級車への乗換えはあり得ない。もっとも、かつてのバブル経済期には、大衆車に乗っていたはずなのに、気がついたら高級車に乗っていたともいえる現象もあったが、その再来などないことは誰もが気づいている。
もちろん、大衆車が劣るものと決めつけているわけではないが、旅館は癒しの場であり、日常とは異なる価値観が体現される場であるとすれば、そのニーズを満たしながら経営目的である適正な利益創出への目標設定が不可欠だ。それを大衆車にするか高級車にするかは、まさに経営者の資質に委ねられている。

(つづく)

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