求める理想は実現する その44
経営者と幹部が持つプライド
Press release
  2007.03.24/観光経済新聞

 GOPを重視する経営者像について、もう少し話を広げてみよう。
その一例として、「早朝ミーティングで、幹部1人ひとりに徹底したヒアリングを行っている」という経営者の話を紹介しよう。この旅館では、定期的な幹部ミーティングが行われており、経営者はそれを通して現状把握と改善指示などを徹底している。そこには、前回までに例示したよう社員からのドキュメントの提出もなければ、経営者が編み出したコンピュータによる管理事項もない

あるのは、フェイス・ツー・フェイスによって、経営者と幹部を包み込む真摯な人間関係だ。ナマの声で語りあい、現状を共有しあっているといっていい。
そうした彼らが、意識しているかどうか私にはわからないが、的確な現状把握と適正な是正措置によるPDCA(計画・実行・確認・是正)サイクルが機能しているのは確かだ。このケースに近いのは、「時間のある限り各部署を回り、その場で状況把握と改善点や対処策を指摘している」という別の経営者だ。
両者に共通するのは、徹底したコミュニケーションの重視だ。現場主義ともいえるそうした行動は「則審今日(今日=現状=をつまびらかにせよ)」という古来の知恵にも通じる。惰性や安きに流れ易い人の常、現在を看過すれば長期の展望も成し得ない――といった2つの戒め作用を生じさせるからだ。
視点を換えると、コミュニケーションの充実した人間関係は、前々回で示した孫子の勝つための要件の1つ「上下の人間が心を合わせる」に通じる。こうしたコミュニケーションによる人心掌握はオールドタイプの管理手法と思われがちだが、旅館のように日本の伝統や文化と密接な関係にある業態では、運用方法さえ間違えなければ効果を発揮する。それが経営者の資質にかかわっているのは、いうまでもない。
一方、和気藹々ともいえる人間関係は、ややもすると馴れ合い的な雰囲気と勘違いされるようにコミュニケーションには諸刃の剣ともいえる要素がある。私は、拙著の中で臭いものに蓋をするような「出来レース」の労使関係は排除しなければならないと、しばしば訴えてきた。というのも、このようなシチュエーションは、社員にとってこの上なく煙たい一面が否定できないからだ。それが高じるとミーティングや部署回りが形骸化し、出来レースを生み出す土壌にもなってしまう。

この手法で成功するには、5回ほど前に示した「成功する経営者、9つの資質」を思い起してほしい。9番目に掲げた「駆け引きをしていい相手(業者など)と、してはいけない相手(社員など)を区分して接する力がある」という項目だ。
この2人のように社員と互いに顔を合わせ、目を見合いながら真摯に語り合いう場には、出来レースの入り込む余地などない。社員に対して真剣に向き合っている経営者像といえる。付け焼刃では長続きしないが、経営者が自分の資質を知った上で継続させれば、ドキュメンツやコンピュータなどに頼らなくとも、最良の管理手法になり得る事実を示している。結果として勝利の実感を共有し、労使一体で旨酒を交わすのが和気藹々の実相だと私は考えている。
これらのケースにみる経営者と社員による成功方程式の共感と共有は、管理面でも大きな意味をもっている。実は、そこにプライドがかかわっているからだ。経営者にとっては、自分自身に対してプライドをもつか否かの判断材料の1つとして、すでに「GOP15%は絶対に確保する」といった姿勢の有無を指摘してきた。達成できなければ、経営者である自分のプライドが許さない。
このことは、幹部にもあてはまる。経営者の掲げた目標を達成できなければ、自分に能力がないのか努力が足りないのかといった自省の機会を与えるからだ。その機会を生かさない幹部は企業にとって無用の人間でしかない。逆に目標を達成できれば、幹部としてのプライドにつながる。そうした経営者と幹部のあり方がGOPアップに欠かせないことを、この2人の経営者が実証している。

(つづく)

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