「求める理想は実現する」 その42
自己を知りプライドに賭ける

Press release
  2007.03.10/観光経済新聞

 前回は、GOPを重視する経営者の取り組みついて、その一端を紹介した。そこには、経営者個々の気質や資質がいかんなく発揮されているといってもいい。
そこで思い浮かぶのが、人口に膾炙されてきた「彼を知りて己を知れば、百戦して殆うからず」という言葉だ。中国の兵法書として知られる孫子の「謀攻篇」にある言葉などと改めて解説するのはおこがましいし、若干横道にそれるのだが、私なりの解釈の一端を記してみたい。
というのも、この一節の前に記されている5つの要点が、意外に忘れられている。その5つとは、戦っていい時とそうでない時を見定める、大軍と小勢の用い方の違いを知る、上下の人間が心を合わせる、自らは準備を整えて油断をしている相手と戦う、将軍が有能で君主が干渉しない――という5項目だ。
私なりに解釈すれば、第1は好機の真贋を見定めることであり、経営者としての洞察力が求められている。第2は戦略と戦術、あるいは全国大会レベルと地方大会レベルの違いを明確に認識することだ。第3は社内の人間関係やコミュニケーションを最適化しておくこと。ただし、これまでも指摘してきたように、出来レース(馴れ合いの労使関係)のような表面的な一体感ではない。第4は好機を逸しないためにGOPを高めておくことであり、1番目を実現させるためにも欠かせない。第5は社員のスキルを把握して適材適所に配置した上で、任せるべきは任せる――といった感じになる。
ひるがえって、「己を知る」を現実に照らすと、多くの経営者が経営状況やインフラ実態を捉えることと勘違いしている。肝心なことは、自身を取り巻く状況を把握したうえで、「いかに対処し、活用するか」にある。そして、何かを活用しようとしたときは、ツールやシステムが必要になる。例えば、紙を切るツールとしてはハサミが欠かせない。ところが、どんなによく切れるハサミでも、思いどおり切れない場合がある。それは、左利きが一般的な右利き用を使ったときだ。己を知るとは、自分が左利きであることを知ったうえで、それにあった道具を選ぶのにも似ている。したがって、しばしば指摘してきたように、真似るだけではコト足りない。最初は真似でも、それを自身に合わせて工夫をすればいいわけだが、そのときに自身が何たるかを知っておかなければ、真似の域を超えられないし、成果も期待できない。何やら禅問答のような話しになってしまったが、彼を知るとは、経営環境や経営インフラを適切に把握することであり、己を知るとは、それを活用できるように自身を研ぎ澄ますこと。大切なことは、自分にとって一番使いやすい道具や仕組みを見出す努力姿勢であり、孫子の5項目に対して常に心を砕いている経営者の姿勢そのものといえよう。
さて、この辺りで本題に戻ろう。GOPアップへ向けた取り組みに腐心する経営者に接するとき、GOPに「プライドを賭けている」という姿を痛切に感じる。ある意味では、自身への挑戦といってもいい。
そうした姿に接した時、多くの経営者に向けて「学校へ通っていた若き日を思い起してほしい」との願いが湧いてくる。往時を振り返って「何で勉強をしていたのか」と問われたとき、さまざまな答え方はあるだろうが、真摯に自問自答をすれば、テストで及第点をとれなければ悔しかったことが、原動力の1つにあったはずだ。結果が不甲斐なければ、自身のプライドが許さなかったのだ。テストの結果だけではなく、何ごとに対してもプライド意識が働いていたはずだ。ただ、当時のプライドには、学校という場で一定の到達ラインがあった。いい換えれば、己が到達ラインに達しているか否かを計るモノサシがあった。ところが、社会では会社の到達ラインなどない。経営者は、自ら目標を定めなければならない。そこに、1つのモノサシがあるとすれば、GOPという客観的な目標なのだ。それにプライドを賭ける姿は、けだし、経営者の高邁な価値観の表れとも映ってくる。

(つづく)

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