「求める理想は実現する」 その41
経営者にみるGOPへの執念

Press release
  2007.03.03/観光経済新聞

 経営維持と設備更新に欠かせない絶対的なキーワードの一つとして、私は常にGOP(Gross Operating Profit=売上高営業粗利益)を指摘している。この売上高営業粗利益とは、平たくいえば宿泊・料飲・物販・テナントをはじめとする部門別利益の合計から、各部門の営業費にあてはめられない非配分営業費(人件費などの管理費、水道光熱費など)を除いた粗利益と考えてもらえばいい。
GOPを重視する旅館経営者の言葉として、印象に残った幾つかを紹介してみよう。
ある経営者は、「年間に1億円の投資をしたい。それを続けていかないと旅館を経営している気がしない」といった。別の経営者は、「設備が十分でなければ、本当の勝負ができない。そのためにGOPを上げる必要がある」という。
こうした経営者に共通するのは、設備関係への関心の高さだ。いい換えれば「旅館業=不動産業」の構図を的確に把握している。
そうした中で、極めつけともいえる回答があった。一般的にみて健闘している旅館のGOPは15%程度だが、私が投げかけた15%の数値に対して、その旅館の経営者は「その程度ではやりたいことができない」と断じてみせた。
では、GOPアップに向けて、実際には何をしているのか。この素朴な疑問に対して、最初の経営者は、先行予約の状況をチェックし、必要な対応策を適時講じることだった。二番目の経営者は、自身に必要なコンピュータ管理フォームを自ら構築したという。それは、各セクションの実態をデータとしてリアルタイムに把握することを意味していた。3番目のGOP20%超に高めている経営者は、もっと具体的にいう。「夕食時の追加料理をはじめ到着後に生じる館内消費のアップだ」と。宿泊だけではなく、もてる力の総和としてGOPアップに取り組んでいるのだ。
そうした事例を紹介すると、必ず返ってくるののが「参考になりました。勉強になりました」という言葉。だが、私の内心では「どこまで理解してもらえたのか」という疑問符がつきまとっている。というのも私は、これまでの著書だけでなく、機会があるたびに「いいとこ取りはダメ」だと指摘してきた。それは、前述した3人の経営者像で示した「何をしているのか」のツボの押さえ方が、それぞれ自身の気質や資質を把握した上で実行しているといえる点だ。他人の真似ではない。コンピュータを生理的に受容れられない人は、どんなにいい管理フォームが与えられても使いこなせられないだろう。
そうした管理ポイントについて25の管理項目をあげた経営者がいる。大切なことは、量としての「25」ではない。それらの項目の中で、現場レベルで解決できない問題が生じた場合、細大漏らさずドキュメントを経営者の許に上げさせる仕組みを構築していることにある。その結果、経営者の手許には相当の量の書面が毎日あげられる。それに対して適切な指示回答を与えるのが、日課の締めくくりになっているという。長文を読むのが苦手な経営者だと、社員に提出させた大量のドキュメンツを読むのは苦痛だろう。他人の成功例を真似るだけでは実を得られないと知るべきなのだ。
そして、継続は力であり、毎日続けられるものでなければ成果は得られない。いいとこ取りの思いつきで真似ても、それが朝令暮改のようにコロコロと変ってしまえば、現場は混乱をするだけでしかない。
いずれにしても前述した経営者に共通するのは、GOPを上げることへの「執念」が感じとれることだ。先行予約、売上高、社員とのコミュニケーション(やる気の把握)などの管理ポイントはまったく違うが、目指している点は同じといっていい。経営者自身の資質や性格によって異なってはいるが、それぞれが自分に最適なツボを押さえているということ。ゴルフのバックスイングには各人各様のスタイルがあっても、ナイススイングのインパクトの瞬間は同じ、というのにも似ている。

(つづく)

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