「求める理想は実現する」 その40
経営者資質が旅館を左右する

Press release
  2007.02.24/観光経済新聞

 筆者の地元、大宰府天満宮の梅便りが聞かれる季節になった。大宰府では、「梅の木の下でひょうたん酒を飲めば厄が晴れる」といった言伝えがあるという。そんな伝承にすがって厄払いをしたくなる経営者も少なくない昨今だが、厄払いなど関係なしに勝ち組として我が道を邁進する経営者もいる。
ひるがえって、これまでの経営数値の捉え方をみると、客単価を人工換算のように発想する傾向があったこ。その単価がグレードに見合い、高いGOPを確保できるのならば、それでも経営は成り立つ。古きよき時代は、確かにそうした一面があった。それは、単一のセグメントで集客しても経営が成り立ったという時代背景があった。仮に高額から低額までの差がそれなりにあったとしても、売り方としては「団体」というセグメントでひとくくりにできた。ところが現在は、そうした単一のセグメントで経営を維持できるほど単純ではなくなっている。これは改めて指摘するまでもないことだ。

ところが、前述した人工計算のような発想が、相変わらずまかりとおって弊害を起こしている。現在の中規模以上の旅館は、複数のセグメント、いい換えれば多様な価格層で埋めなければならないのが現状なのだ。そうなると、単価というしばりではなく、それを細分化して各価格層のプロフィットの総和としての経営を考えなければならない。これについては、すでに「キャップ分析」の必要性として繰り返し述べてきた。
手元のファイルにある旅館みると、平均単価は2万円台となっている。その数値だけをみると、かなり高質で妥当な経営をしているようにも思われがちだ。ところが、全体の3〜4割は1万円台前半の価格帯で埋められている。経営者としては不本意な集客なのだろが、それが実態ともいえる。問題は、1万円台前半の価格帯に対して、料理原価こそ若干下がっていても、サービスグレードなどは2万円台のものが準用されている。したがって1万円台前半では実勢売価のギャップが大きい。筆者はかつて「貢ぎの構造」を指摘し続けた。高額客で得た利益を、低額客の利益不足の補填に回す構図だ。これではGOPが上がらない。
そうした実態に触れるたびに思うのは、まず、不動産業と料飲業を明確に分けたオペレーションの必要性だ。不動産業として「室料」を適正に確保し、料理・サービスなどは単価に応じたオペレーションを並立させる経営手法でもある。泊食分離とは、そこに本旨があるはずだ。そして、実際の販売にあたっては「1泊2食」を基本とする。

さて、運営オペレーション考えた時、お出迎えからお見送りまでのお客さまの一連の流れを細分化し、作業をタテ・ヨコに連携させる構造に変える。例えば厨房がタテ割りの構造だと、客単価が下がっても板前がセット人員的に配置されていれば、それもギャップ要因でしかない。いずれにしても、タテ割り一辺倒を構造改革するために、配膳システム、予約販売管理システム、総合経理システム、旅館版レベニューマネジメントシステムなどさまざまな経営近代化ツールをリリースしてきた。ただ、これらの仕組みは、旅館の伝統を踏まえながらより健全に発展させるのが願いであり、その意味では「和魂洋才」と理解してほしい。
そして、こうしたツールを受容れるか否か、さらに導入した場合どこまで活用するかといった視点が重要になってくる。それが、前回指摘した9つの資質ということになる。
なぜこれが問われるのか――。それは、産業としての観点と企業の規模から考える必要がある

一般的な産業は、資本家と運営者が異なる。例えば、ホテル業界では、資本家と雇用されたGMといった構図が多い。GMは、なによりもGOPを考え、GOPが下がれば解雇もやむなしと捉える。また、GMが代わっても、ホテル経営の基本方針が変わることは稀だ。これに対して旅館は、資本家が経営に当っている特異性がある。つまり、旅館では経営者の資質がすべてを左右している。そうした観点から経営者像を検証してみる。

(つづく)

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