「求める理想は実現する」 その38
GOP35%の実現に向けて(下)

Press release
  2007.02.03/観光経済新聞

 これまでの旅館経営を振り返るとき、1つの象徴的な事象があげられる。それは「部屋をつくり過ぎてきた」ということ。結果として、販売にあたってはマーケットプライスに対して「選択の余地なし」で追従してきた。バブル経済崩壊後の価格破壊にはじまり、価格志向の中でシビアな経営を迫られた。
ただ、そうした状況下でつくりすぎた部屋を減らすなどの「無いものねだり」をしても問題は解決しない。現状を冷静に見捉えた再チャレンジこそが求められるのだ。これに対して筆者は、経営状況を解析する種々の経営ツールを提起してきた。また、解析のためには高度な資料作成と計算が求められるが、それらを人間の手でこなすには限界があるのも事実だ。そこで、コンピュータを駆使した経営ツールの開発が迫られた。
といって、経営の主導をコンピュータに委ねるといった意味ではない。インプットしたデータがコンピュータという、いわばブラックボックスの中で解析され、それが判断材料としてアウトプットされるだけだ。最終判断は、どこまでも経営者に委ねられている。テレビで映像が映される仕組みを知らなくても、スイッチを入れれば映り、チャンネルを操作すれば見たい番組が見られるのと同じで、主導権は見る人間の側にある。例えば、宿泊予約にしてもコンピュータがロボット的に受注するわけではない。受注のためのフォーキャスト(落としどころ)を演算してくれるだけであり、実行するのは人間にほかならない。ただ、その演算は高度なものであり、電卓片手に人間が行っていては、フォーキャストのタイミングさえ逸してしまう。つまり、自動化できる部分はシステムに任せればいいという、しごく当然の理でしかないのだ。

視点を換えてみよう。客室数が数十で、単一的なセグメントだけで埋めることが可能ならば、こうしたシステム発想はさほど必要ないかもしれない。だが、中規模以上になると単一のセグメントだけで埋めきることは不可能だ。さまざまな企画や料金体系を駆使しなければならない。それが、旅館版レベニューマネジメントを必要とする最大の理由だった。そして、オペレーション技術やサービスグレードなどさまざまな要素が必要とされる中で、最大の眼目は「室料」をいかに確保するかに帰結する。なぜならば、旅館は「不動産業」だからだ。
それには、客単価に応じた人件費をはじめとする緒経費の分析が第一歩だ。それは、すでに述べてきたプランごとの計画価格と販売実績のギャップ分析でもある。これがなければ「人数あってもカネ足らず」の状況から脱することができない。つまり、売上の実勢と運営コストの相関関係を的確に把握することでもある。その場合、厨房の作業コストも含めた料理原価と接客サービスコストを明確にしなければ、肝心の室料が算出できない。室料とは、いい換えれば投資に対する返済原資であり、室料がマイナスになっていれば返済などできない。経営が苦しいというのは、実は室料計算ができていないことの裏返しでもある。
このことを逆説的に、そして極めてシンプルに例えるならば、販売の実勢価格から室料や原価などを差し引いたものと、サービスグレードがマッチングしているか否かだ。ところが、それがマッチングしていない場合に、室料を無視することで帳尻合わせをしていたかのようなケースが多々ある。これでは返済原資が確保できるわけがない。

さて、以上のことを踏まえた時に、旅館は「GOP35%が可能」という明るい展望があることを強調しておきたい。第1は、料理と温泉という稼働率アップの要因があること。第2は、厨房関連原価が予約時点で算出できて生産性が高いこと。第3は、売店やパブリック営業ですでに利用客を確保していること。つまり、これら3つの優位点を最大限に活性させながらオペレーションコストを勘案すれば、GOPアップができるということだ。そのためには、和魂洋才ともいえる旅館版レベニューマネジメントが欠かせない。


(つづく)

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