本シリーズでは、予約販売管理システム、総合経理システムなど旅館に欠かせない近代経営ツールとして、さまざまな分析システムを紹介してきた。旅館版レベニューマネジメントも同様に、経営実態を分析するものであり、換言すれば経営をシミュレーションだ。そうした視点からこれまで述べてきたことを整理してみたい。
旅館版レベニューマネジメントは一口でいえば、販売実績に対して原価を解析し、利益がどれだけ確保できたかを明快に把握することにほかならない。そして、利益を確保するためのフォーキャスト(落としどころ)を見定める。勘や経験則が頼りの安売りと、この点が根本的に違う。つまり、販売予測から実績までトータルの解析を行い、理にかなった経営実現することだ。
例えば、これまでの旅館経営では、顧客別の売上を捉えることはあっても、エージェントごとの商品や自社のプラン別販売実績になると、ほとんど手つかず状態にあった。これでは、実態がみえない。旅館版レベニューマネジメントでは、客単価別のリストやセグメント別の実績管理など、さまざまな帳票データを作成する必要がある。そこには膨大な作業が想定でき、その話しだけで腰が引けてしまう経営者も少なくない。だが、そうした作業については、基本的な入力作業こそ欠かせないが、それさえ行えば後はコンピュータが処理する。入力データがどのような仕組みで解析されるのかを知ることは、ほとんどの場合に要求されない。いい換えれば、手順どおりにインプットすれば、それが適切な解析の下でアウトプットされる。その結果に対して「最後の判断」を下すことが経営者の仕事といえる。前回指摘したログ解析も、そうした手順によって可能となるわけだ。
これまでの旅館経営では、設備投資など施設を改修した場合、最初に発想されるのが量的拡大だった。これだけ投資したのだから、これだけの売上を上げなければならないという発想だ。当然といえば当然だが、こうした発想では一人相撲におわるケースが少なくない。ニーズやマーケットプライスなど外的因子と自社の都合は、往々にして噛みあわない。これに対して筆者は、まず人件費解析を行う。人件費の適正化がプロフィット創出の要となるからだ。さらにいえば、地域との連携を図ることも欠かせないわけだが、これらについては「地域OS」として機会を改めて述べる。
さて、旅館版レベニューマネジメントとしてさまざまな解析と、それに基づくフォーキャストの必要性は理解されたと思う。肝心なことは、今後の経営においてそうしたシステム開発が不可欠であり、筆者はそれを構造改革の視点から推進してきた。その場合、なによりも大切なのが度々指摘してきたミクロ解析だ。マクロの視点に立った管理は、ミクロが不十分だと成り立たない。模式図式的にいえば、「ミクロ解析→マクロ解析→ログ解析→是正措置」といった流れになる。
具体的な事柄にあてはめてみると、休前日など年間80日ある特別営業日の販売などに一例をみることができる。仮に、そうした特別営業日を対象に5つの企画商品を造成した場合、低い料金帯の企画も早い時期から販売してしまうケースがある。多少乱暴ないい方をすると、高額と低額の差は2倍、3倍といった大きなものではなく、せいぜい30〜40%でしかない。その数十%の中でシビアなせめぎあいを行って利益を創出する以上、最初から低料金帯を販売するのは無策としかいいようがない。これでは、「人数あってもカネ足らず」の状況を引き起こしてしまう。最初に販売しなければならないのは、5つの中で単価の高い2〜3の企画に限定することだ。そうしなければ、最終的な単価アップは実現しない。そのためにはログ解析が重要な役割を担っている。
なぜ、そうした販売がまかり通ってきたかのといえば、不動産業の原点である「室料」への認識の希薄さだった。いわゆる「1泊2食込々」の発想に縛られていたからだといえる。
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