求める理想は実現する その35
コストの細部まで捉え直す
Press release
 

2007.01.05/観光経済新聞

 平成も19年目に入った。平成不況といわれた長いデフレスパイラルの時代も、そろそろ新たな局面に向う気配が見えてきたという。そうした経済時評は専門家に委ねるとして、とのような状況下にあっても経営の最終目標が変るわけではない。適正なGOPを目指し、臨界GOPの達成、再投資計画の策定、さらなる発展への経営計画策定といったステップが待っている。
さて、前回は旅館版レベニューマネジメントによる解析の「標準コスト」に言及した。今回は、それを発展させていくが、前回分に若干の補足をしておきた。それが、人件費の考え方「(3)接客サービス」にかかわる部分だ(下表)。例えば、1000円のパートを雇った場合、「接客サービス単価の50%」とあるのは、逆算すれば、そのパート従業員が行う接客サービスの売価は「2000円」まで、という意味だ。つまり、これまで「ホスピタリティ」の言葉でアバウトに済ませていたものを、スキルや時間などの緒原に細分化し、経営面の数値として標準化する発想だ。いい換えれば、2000円のサービス売価で提供できる内容、5000円ならば欠かせないサービスといったものを、経営数値として明確化すること。これは、経営面のプラスだけでなく、しばしば問題視されるサービスの「バラつき」を排除し、結果として適正グレード感を確立することにつながる。
こうした発想からパブリック営業部門を捉えると次ぎのことがいえる。例えば、売店の標準人件費は、売上高の「5%」(仮想値)なら適正化が図られる。同様に仮想値ではあるがラウンジは「30%」、クラブが「20%」、カラオケボックスが「5%」、二次会処が「50%(原材料+人件費)」といった数字が弾きだせるはずだ。それ以下に抑えると人的サービスが不十分、それ以上だと適正利益が阻害される。さらにいえば、こうした標準化は、個々の旅館で取り組むだけでなく、業界における人件費ガイドラインとして確立することで、経営効果の面だけでなく、旅館料金の透明性を打ち出す付帯効果も期待できよう。
なぜ、こうした人件費への取り組みが必要なのか、老婆心から補足しておく。例えば、レベニューマネジメントの観点で解析を行うと、いわゆる売上単価の実数に対して、不動産部門の原価を満たしていない、あるいは料理原価を割ってしまうなどの実態がみえてくる。仮に2食込み5000円などの売価だと、室料はまったく度外視されている。だが、室料が「マイナス」の販売もあり得る。特殊な立地条件の場合、オフ期は休業した方が経営面で合理的な場合がある。だが、ky休業するわけにはいかないのが現実だ。このような場合、人件費は年間設定のものであるために、営業を休止すればマイナスになる。そこで、不動産部門(室料)はマイナスでも営業することで人件費分を確保する。
 つまり、前回の料理の項で「食器償却」などの細分化をしたのは、内装や外装を含めて基準となる数値、すなわち「標準」となるコストを、すべての面で明確にし、それをベースに計画を組立てる必要があるからだ。そして、実情を標準に照らしながらシミュレーションすることが大前提といえる。上記のような特殊なケースであっても、その条件を踏まえた組み立てによって利益確保へ向けたレベニューマネジメントが可能になるのだ。
 要は、旅館版レベニューマネジメントでは、標準を設定することで他社との競争舞台で闘い易くする。視点を換えれば、自館のウィークポイントを見出し、それを是正して有利な販促を展開することにある。予約実績の解析・シミュレーションをどんなに加えてみても、売るべき商品が価格面で競争力不足ならば意味がない。筆者がコストの諸原に拘泥するのは、コストへの認識が第一歩であるためだ。予約を1件成約するのに、一体いくらの人件費がかかっているのか。そうした面にまで目を向けてほしい。

(つづく)