「求める理想は実現する」 その32
シミュレーションへの分析手順

Press release
  2006.12.02/観光経済新聞

 旅館版レベニューマネジメントでは、収支を細部まで分割・分析することが第一歩だ。そこで、全体を俯瞰しながら改めて整理をしてみる。というのも、原価を明確にしておかなければ、GOP目標が設定できない。いい換えれば、経営実態に即したシミュレーションも販売計画書も策定できないことになる。
まず、解析の手順を整理すると以下の流れになる。予約実績から宿泊単価セグメント分析を行う。そこから洗い直された「単価別サービスグレード」が決定する。具体的には、フロントをはじめ送迎、客室、料理、接客など各部門のサービスグレードだ。これは、現状の宿泊商品プランを解析した上での新商品プラン体制(解析後プラン)へとつながる。
この解析後プランによる体制下で「プラン別実績シミュレーション」を行うわけだが、それがただちに次ぎの段階へと進むとは限らない。決算書に照らしたときの分析結果が、現状に「不適」なケースが多々あるからだ。というのも、旅館には減価償却をしていない実態がある。例えば、建物の簿価が10億円であっても、実際には2億円程度のケースなどがある。これについて旅館版レベニューマネジメントでは、建築の年月日を入力すると当該会計年度の減価償却が算出できるソフトも用意している。また、有利子債務と利息との関係もあり、それを建物償却と見合う金額に合わせたキャッシュフローも見定めなければならない。いずれにしても、こうした実態を見過ごしたままでは、新体制下でのシミュレーション全体が砂上の楼閣に等しい。
つまり、販売シミュレーションは予約実績に基づく単価別セグメント分析からスタートするわけだが、一方で決算書に照らした部門別の実績収支とも整合させなければならない。その上でプラン別の実績分析を行い、さらに運営プランの解析を行う。実は、この運営プランの解析が前記の「単価別サービスグレード」の決定につながるわけだ。いい換えれば、解析後プランの新体制に移行する前の「不適」を解消した姿が、そこに見出せる。
この2つの流れを踏まえて、解析後プラン体制が確立する。そして、次のステップである「プラン別実績シミュレーション」へと発展する。
ここまでは煩雑とも思える流れだが、全体を俯瞰するときに避けては通れない2つのサイクルがあることを理解してほしい。逆に、ここまで分析が進むと人件費運営コストも適正な形で修正でき、それを踏まえたGOPを求めることが可能となる。
さて、最終目標のGOP算出にあたっては、当面の計画を3次と捉えている。まず、臨界GOPを達成する第1次経営計画、次に再投資の計画を策定する第2次経営計画、そして健全経営の維持と新たな発展へむけた第3次経営計画といった想定だ。もちろん、これを達成するには、以上の分析・解析とシミュレーションを繰り返すことが欠かせない。また、第1次経営計画の途路にあっても売上がそこそこに伸びるのは必然だ。そうした状況に至った折に心しなければならないのは、業績が何となく上向き気配をみせ始めた時の気の緩みだ。筆者は時折り「無駄遣いをしない」と喩えるが、実はこうした無駄遣いが経営の随所にみられる。
なお、前述した「不適」について若干の補足をするならば、減価償却については「償却不良」といえる。有利子債務については、自己資本不足による有利子債務と欠損金の合計額に問題があること。さらに、標準面積と実勢面積の差異といった問題もある。これは、客室ならば15u単価での総定員数と実勢宿泊者数の差異が挙げられる。同様に宴会場や会議場の償却コストにも問題がある。つまり、有利子債務にありがちな不用意につくってしまったプール、年間に数回しか稼動しない大会議室などの不良債権問題でもある。
いずれにしても、旅館版レベニューマネジメントを展開することで、GOPは総売上高の35%など飛躍的に向上する。そによって返済計画も立てられるということを念頭においてほしい。

(つづく)