前回指摘したように棟ごとの異なるグレードと料金帯、そして料理や接客サービスのグレードを解析し、それを再構築していくことがGOP向上で不可欠な作業といえる。また、旅館版レベニューマネジメントでフォーキャストする場合でも、基本となるこれらが従前の「どんぶり勘定」であれば、プロフィットの創出は難しい。
さて、前回指摘した「料金vs施設・料理・サービス」の構図について、基本的な対応面で若干の補足を加えてから具体例に進もう。
第1は、料理グレードの整合だ。本シリーズ第25回の項で提起した「仕込み率」の発想を思い起こしてほしい。これは、従前の原価率だけでなく板前のグレード(加工技術)にも焦点をあてるものだ。前回と同様で仮に本館が8千円、別館が1万5千円、新館が2万円とした場合に「仕込み率」の発想を持ち込むと、8千円の場合は「板前20%+パート80%」で可能な加工技術で賄うのが基本形だ。これに準じると1万5千円は「板前70%+パート30%」、最上位の2万円は「板前100%」となる。
第2は接客グレード(料理提供時)であり、例えば部屋食では何回に分けて提供するかによって運営コストは変ってくる。そこで料理と同様に「接客サービス率」の発想から捉えると、客室係1人が担当する客室(個人客対応)は、2万円だと3室、1万5千円が4室、8千円は5〜7室(ないしはバイキング会場などを利用した接客レス)程度となる。また、団体客の場合はエージェントからの要求人数を考慮することになるが、今後の課題としては旅館側が実情に照らしながら「業界水準」としての接客人数も打ち出す必要がある。
上記を踏まえてGOPの視点から客単価向上を考えてみよう。具体的な施策としては、@食材原価による付加Aサービスの向上B施設のリニューアルといった3つの方法がある。
第1の食材原価による付加は、仮に原価300円のステーキを1枚加えることによって、単価を1千円アップさせる手法だ。実質的には700円の単価向上になる。これは、昨今注目されている「地産地消」の発想に立てば、その土地ならではの食材提供(地域固有の料理)につながる話題性の創出で、700円以上の付加価値や相乗効果も期待できる。
第2のサービス向上は、「料金vs施設・料理・サービス」の「サービス」に焦点をあてる手法だ。いわゆるソフト面のオリジナリティを打ち出し、他館との差別化と同時に、運営コスト自体はさほど必要としないために、アップ分がそのまま単価向上に反映させられる。
第3の施設リニューアルは、客室内装面を想定したものだ。仮に1室500万円の改修をした場合に、償却・利息で単価反映分として1千円のアップと算出されたときに、2千円の室料アップによって1千円の単価アップが実現することになる。
これらの手法をサクセスストーリーとして展開する場合、次のステップが想定できる。
第1のステップは、食材原価の付加とサービスの向上だ。ここでは、単価アップとサービスアンケートの向上を狙い、CS(顧客満足)を高めて全体としての稼働率向上(売上拡大)を目指す。これを踏まえた第2のステップは、低単価販売を停止することになる。従前の流れに照らすと「荒療治」にも思えるが、レベニューマネジメントによる解析を加え、適切なフォーキャストを実行することで、実は「稼働率が低下しても平均客単価が向上」というマジックが発現される。
第3のステップは、1〜2ステップで高めたGOPによる基礎体力を活かす段階ともいえる。具体的には全館のグレードを向上させることであり、最初にパブリックと食事処のリニューアルを行う。そして第4のステップとしては、宿泊単価セグメントをとおして自館のメイン客層を掴み(構成比を分析)、客室グレードアップのリニューアルを行う。レベニューマネジメントは、そこまで発想するものと理解してほしい。
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