「求める理想は実現する」 その30
GOP向上への基本的検証(上)

Press release
  2006.11.18/観光経済新聞

 旅館版レベニューマネジメントは、現状を適正に把握したうえで「どのタイミングで、どの客層に、どの価格帯で売るか」を判断することであり、理にかなったフォーキャスト(落とし込み)をするのが狙いだ。もちろん、大前提はGOP(Gross Operation Profit=売上高営業粗利益)を向上させることにある。前2回は、不動産業の視点から客室価格に対する基本的な認識を示したが、今回は全体的なGOPの捉え方を整理しておこう。
すでに述べたように旅館は、いわゆる不動産主体のホテル型イールド/レベニューマネジメントだけでは対処できない。不動産(室料)、料理、館内消費(売店、ラウンジほか)の3大部門が関連し合い、利用客の側も「それらの総和」をもって旅館を評価しているからだ。ハードとしての客室が「上」であっても、大浴場をはじめとするパブリックが「並」で料理が「並」ならば、全体評価が「並」を越えることは難しい。いわば3大部門の調和が、GOPの向上を目指す上でバロメーターにもなる。
この点を構造改革の視点から整理すると、次の3要素を留意しなければならない。第1は、資金の確保だ。これには、債務(元本・利息)の弁済資金と顧客のニーズに対応するための資金(リニューアル、リノベーション費用)の2系がある。どちらも正常経営ならば常に確保していかなければならない。なぜなら、2つとも必要な「その時」には「待ったなし」に求められるからだ。
第2は、プロフィトの創出だ。利益を上げられない企業経営などありえない。つまり、売上の拡大と同時に、売上をいかにして利益に転化するかである。従来の経営センスでは、売上が増えれば利益も増えると単純に思いがちだったが、これは大いなる錯覚でしかない。運営の基本構造が変らなければ、原価や運営コストの肥大化が避けられないからだ。構造改革的にいえば「量から室への経営転換」が必要だということ。そして第3は、売上増大が難しい状況に置かれている場合は、業態変更を含むコスト削減への大ナタをふるうことだ。
次にGOPを向上させる方策を考えてみよう。まず、プロフィットを創出するためには、運営コストのムダを排除しなければならない。これが、いわゆる「業務リストラ」ということになる。だが、業務リストラを断行するためには、すでに指摘してきたように「全館一律」という従前のアバウトな発想では効果が得られない。
例えば、躯体として耐用年数をすでに超えたような本館、陳腐化の進んでいる別館、最近のニーズに合わせた新館など複数棟が「○○館」の名称で一くくりにされている。だが、価格帯は棟ごとに異なっている。こうした区分は、いわば旅館側の便宜的なものであり、客側から違いをみることは難しい。このあたりの表現方法は整理する必要もあるが、ここでは本題と異なるために割愛する。

さて、肝心なことは、棟ごとの異なるグレードと全館のグレードを、どのように整合させていくかにある。上記の棟別価格を考えてみよう。仮に本館が8千円、別館が1万5千円、新館が2万円だったとしよう。前述のように客評価は3大部門の総和によって下される。俗な言い方をすると「この料金でこの施設」というよりも「この施設とこの料理とこのサービスで、この価格」といった評価だ。古い建物だから「8千円が妥当」とはならない。「料金vs施設・料理・サービス」の構図になっている。
こうした構図は、改めて指摘するまでもなく旅館経営者は体得しているはずだ。しかし、あえて例示したのは、価格に連動した料理や接客グレードの使い分けに対して、かなり無頓着なケースが多いためでもある。実は、こうした使い分けの背景にある実態を解析していくと、そこから「プラスα」の発想が生まれてくる。安価一点張りではなく、プラスαによって値引き前の原価に戻し、さら単価アップへの途がみえてくる。そのためには、GOPを念頭に置いたレベニューマネジメントが欠かせない。

(つづく)