不動産業としての不動産原価は、旅館版レベニューマネジメントの視点で捉えると、すでに述べてきたように実際の利用状況から「客室」「パブリック(浴場、庭園など含む)」「宴会場(厨房など含む)」に大別した発想が欠かせない。そこで、前号で指摘した「標準客室料」を中心に考え方を整理してみよう。
旅館では、多様な客室形態とそれに付随する接遇サービス、料飲の提供場所と方法、さらに浴場やパブリックなどが渾然一体となって評価される。そこに、ホテルのレベニューマネジメントとは異なる発想が求められるゆえんがある。といって、「ゆえに従前の価格算出手法しかない」と短絡や諦観を抱いたのでは、現状を打破することができない。そこで、さまざまな客室形態と付随する事項を、基本計画づくりの第一段階では完全に分離して発想することが求められる。そして、利益計画をはじめとする実際の経営計画の策定時点で、料理やサービスを戦略的発想で刷り込むことになる。
さて、基本についてはすでに述べた建物の躯体と関連設備などの初期投資や耐用年数、定期的なリニューアル投資などを織り込んだトータルコストが前提条件となる。
ちなみに下の表は、耐用年数を簡略化したものである。表中の25と30にタテ線を引いてあるのは、建物の躯体が50年耐用するとしても、できれば25年でスクラップ&ビルドを含む大型のハード刷新、25年が無理であればせいぜい30年を目途に刷新を計画しておこうという意味だ。また、躯体以外は10年から15年で刷新が必要となる。よくいわれる言葉に「ハードは完成した瞬間から劣化が始まる」というのがある。木造建築ならば日々の清掃で磨きこんだハードが、伝統と格式を物語る訴求ポイントにもなり得るが、RCの躯体で「老朽化」の言を退けるのは不可能に等しい。さらに、内装や空調など消費者が自分の日常と対比がしやすい項目では、老朽化など受容れられる道理がない。老朽に至らなくとも陳腐化だけで、ハードとしての商品価値を著しく損なうことになる。
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