求める理想は実現する その29
標準客室料の認識が第一歩(下)
Press release
  2006.11.11/観光経済新聞

不動産業としての不動産原価は、旅館版レベニューマネジメントの視点で捉えると、すでに述べてきたように実際の利用状況から「客室」「パブリック(浴場、庭園など含む)」「宴会場(厨房など含む)」に大別した発想が欠かせない。そこで、前号で指摘した「標準客室料」を中心に考え方を整理してみよう。
旅館では、多様な客室形態とそれに付随する接遇サービス、料飲の提供場所と方法、さらに浴場やパブリックなどが渾然一体となって評価される。そこに、ホテルのレベニューマネジメントとは異なる発想が求められるゆえんがある。といって、「ゆえに従前の価格算出手法しかない」と短絡や諦観を抱いたのでは、現状を打破することができない。そこで、さまざまな客室形態と付随する事項を、基本計画づくりの第一段階では完全に分離して発想することが求められる。そして、利益計画をはじめとする実際の経営計画の策定時点で、料理やサービスを戦略的発想で刷り込むことになる。

さて、基本についてはすでに述べた建物の躯体と関連設備などの初期投資や耐用年数、定期的なリニューアル投資などを織り込んだトータルコストが前提条件となる。
ちなみに下の表は、耐用年数を簡略化したものである。表中の25と30にタテ線を引いてあるのは、建物の躯体が50年耐用するとしても、できれば25年でスクラップ&ビルドを含む大型のハード刷新、25年が無理であればせいぜい30年を目途に刷新を計画しておこうという意味だ。また、躯体以外は10年から15年で刷新が必要となる。よくいわれる言葉に「ハードは完成した瞬間から劣化が始まる」というのがある。木造建築ならば日々の清掃で磨きこんだハードが、伝統と格式を物語る訴求ポイントにもなり得るが、RCの躯体で「老朽化」の言を退けるのは不可能に等しい。さらに、内装や空調など消費者が自分の日常と対比がしやすい項目では、老朽化など受容れられる道理がない。老朽に至らなくとも陳腐化だけで、ハードとしての商品価値を著しく損なうことになる。

一口に「ニーズへの対応」と言った場合、接遇や料理などの小手先の事柄ではなく、不動産業としてはハード面の対応が根幹となっている。もちろん、現状を〈ガラガラ、ポン〉で1からやり直せるわけではないが、少なくとも現状を適正に把握し、それに基づく経営計画の策定によってある程度の対処は可能だし、その最善を尽くさなければならない。その際に、下表で示した耐用年数の短いものについては、想定した時期までに必要なプラスアルファを織り込んだ総額を合算し、そこから不動産原価を算定することになる。
多少乱暴な例えになるが、1室原価を算定してみよう。仮に上記の発想で、全投資額から平米数で按分した1室の投資額が1000万円と算出されたとしよう。これを25年の長期計画に基づく場合、1日換算で1000円強の原価となる。これに金利や利益など加算するとともに、平均的な稼働率を勘案することで、およその原価が試算できる。同様に前述したパブリックや宴会場など他の不動産部門についても原価を算定するわけだ。
また、こうした手法に基づくと客室の什器備品、アメニティ、景観などさまざまな構成因子ごとの付加価値的部分も、原価を算出する要素に加えることができる。要は、1部屋ごとに予算化を図ることで、それに対して先行予約状況を勘案した適正なフォーキャスト(落とし込み)が可能となる。さらに、泊食分離による料理の効果的な訴求(原価率見直しによる再投資効果)へつながるなど、次の一手が講じられる。

(つづく)