前回は、稼働率を弾き出すために低価格帯の集客率を上げなければならないと記した。これは、見方を換えればその価格帯をセグメントしていた他館のマーケットに切り込むことになる。価格志向の強まった現下での低価格帯マーケットは、層が厚いと言っても際限なく広がっているわけではない。当然ながら押せ押せ式で下位の価格帯への圧力が高まってくる。単価を下げて現状に対応しようとする旅館も、それを受けて自館も下げるかふんばるかは別にして、どちらの旅館にもGOP圧縮の圧力がかかってくる。
そうした中でGOPを確保するには、料飲高をコントロールする以外に方法はない。そのためにバイキング形式の食事提供を何度となく指摘してきた。だが、そこでも新たなコントロールが必要になっている。
例えば、部屋グレードなどによって1万円から7000円ぐらいまでの単価の幅があっても、これまでは同じバイキング会場で対応することが何となっていた。そのときの料理原価は、朝食が400円で夕食800円、これに人件費などを加えた料飲高が2500円(料飲率では35.7%)だったとしよう。これを1ランク下げて6000円まで混在させた場合を想定してみると、そのままの料飲高では6000円に対応できない。単価7000円でGOPをデポジットした室料は4500円だが、単価6000円では3500円にしかならないからだ(料飲率は41.7%に跳ね上がっている)。
そうなると、料理原価は朝食350円と夕食600円程度に下げて、料飲高も2000円ほどに抑えなければならなくなる。それでも室料は単価7000円に比べれば500円ほど目減りしてしまう。さらに問題なのは、稼働率確保の6000円が1〜2割増えても、1万円台がなくなってしまえば、グロスで捉えたときのGOPは以前よりも下がってしまい、稼働率アップの効果は消し飛んでしまう。むしろマイナスにさえなりかねない。といって1万円台を確保できたとしても、今度はその価格帯の客に料飲高2000円で満足してもらうことは難しくなる。
極めてシンプルに発想すれば、価格帯別に複数のバイキング会場を設ければいいことになる。だが、これは「ないものネダリ」に等しい。また、バイキング会場が増えれば、それに伴ってオペレーションも複数が必要になる。これでは「未体験ゾーン」の経営に対応した取り組みとはいえない。
そこで、従来のオペレーションの見直しが必要になってくる。例えば、同じバイキング会場を使ったとしても、単価別にパーテーションを構成し、単価に合わせて事前に別料理を何品かセッティングしておくことは可能だ。当然ながら6000円では事前のセッティングがない。これは、ある意味で逆転の発想とも言える。従来の発想は、6000円をベースにオプション料理を加えて7000円、1万円と積算した。最終的な売上としては同じになるケースもあるが、オプションには販売の不確実性が伴い、さらに当日の追加オプションなどが発生すれば、それに対応する現場のオペレーションは混乱を招きやすい。結果として、効率化を図る上で逆の阻害要因になりかねない。
同一会場のパーテーションによるこうしたオペレーションは、複数会場への対応やオプション料理に比べれば、多少の複雑さはあっても、決してできない相談ではない。また、GOP確保に不可欠な料飲高のコントロールは、想定どおりに展開できるはずだ。
要は、「未体験ゾーン」での経営には、単価にみあった料飲高(料飲率)を適切に弾き出し、それを確実に遂行するオペレーションが欠かせないということになる。
前述した「逆転の発想」とは、別の見方をすると「セグメントを明確にする」という意味でもある。さらに言えば、年間に必要なGOPを確保するためには、単価と客数に一定の目安をつけなければ計算が成り立たない。成り行き任せや不確実なオプションによるカサ上げでは、そうした計算ができないことを、改めて認識する必要がある。
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