旅館版レベニューマネジメントでは、科学的な現状分析、マーケットのセグメント、需要にあった商品企画、予算編成と a1130.html 落とし込み(フォーキャスト)を行う。その円滑な運用のためにレベニュー会議を行うのが一連の流れだ。
その際に前回指摘した「商品力とセグメントのバランス」が重要な意味をもっている。セグメントとは「消費者全体を一定の基準で分けた同質なグループ」と解されており、「一定の基準」を「自館の商品力」と置き換えればわかり易いだろう。したがって、自館の力量にそぐわない商品企画をオープンマーケットに流した場合、力量以上だと販売に苦慮するだけでなく、売れても力量不足でクレームにつながり評判を落とすことになる。加えて、営業マンの経費や販促費などで多様な経営マイナスが生じる。逆に力量以下であれば、本来得られるはずの利益を放棄する結果になる。しかも、力量に合わせた運営コストがかかっている以上、接遇サービスや施設維持の諸経費負担が吸収できず、これも経営の大きなマイナス因子でしかない。
一方、フォーキャストは「需要予測」といった意味だが、筆者は単に予測するだけでなく、それに基づくアクションを重視している。多少の語弊はあるが、日常的な一場面を想定してみよう。予約担当者の「予約が伸び悩んで見通しがつきません」という言葉に対して、経営者が「う〜む、困ったな。どうしよう」では経営が成り立たない。見通しがつかなくなる時点まで情況を放置したことも問題だが、その時点で問題点を探ろうとするのは愚の極みだ。結果として何らかの対処策がでたとしても泥縄の「その場しのぎ」に過ぎない。だが、そうした現実が多すぎる。
こうした状況に対して旅館版レベニューマネジメントでは、先行予約状況をレベニュー会議で絶えず把握・解析するのはもちろんだが、肝心なのは、どのような状況になったらどう対応するかをプログラミングしておき、それに合わせたアクションを起こす点にある。それが、単なる需要予測ではなく「アクション=落としこみ」である。
若干横道にそれるが、最近の経営論として「ロングテールビジネス」がある。販売実績のグラフでタテ軸に売上、横軸に品目を配した時、売上の8割を占める売れ筋商品を頂点に、非売れ筋商品が裾野をひくような円弧を描く。非売れ筋商品群が売れ筋商品の尻尾のようなグラフ模様になることから、この名称がつけられた。つまり、2割の商品群が売上の8割を占め、残る8割の商品群は売上の2割しか貢献していないという従来の経営論に対して、売れ筋ではない8割の商品が注目され始めたということだ。この非売れ筋商品群に、特別室や日中稼動の低い料飲・物販などの諸施設を当てはめて販売施策を講じる発想も可能だが、それよりも「空室対策」として捉えるのが現実的といえよう。つまり、ロングテール部分で販売に苦慮していた空室も、「適正なタイミングに適正な価格での落とし込む」という発想につながる。
この落とし込みで最も大きな要素が「標準客室料」だ。そこで、不動産原価を出す要素と手順を捉えてみよう。最も大きな要素は、当然ながら建築コストだ。これをスペース別に「客室」「パブリック(浴場、庭園など含む)」「宴会場(厨房など含む)」と3区分する。このうち基本となる客室は棟別をはじめ建築年次やニーズに合わせた広さの違いなどを考慮して、客室ごとの平米数を出す。これが不動産としての基本的な室料だ。ただし、実際に販売する際の標準的な室料を算出するには、客室平米数に対して内装(什器備品を含む)のグレード、あるいは観光立地が売りならば部屋からのビューをはじめ、さまざまなファクターによってプラス・マイナスを加味することで「標準客室料」が算定できる。これが明確でないと「適正なタイミング」は捉えられても、「適正な価格」での落とし込みができない。つまり、利益設定の前段として、以上のような発想と現状解析が必要なことを理解してほしい。
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