「求める理想は実現する」 その25
利益設定の前段として(上)

Press release
  2006.10.14/観光経済新聞

 旅館版レベニューマネジメントでは、予算書作成の前段として実際の経営状況を解析する。そこでの分析シートでは、売上にかかわる3大部門として、不動産(室料)、料理、館内消費(売店、ラウンジほか)を区分し、各部門の実態を明確にするわけだ。これには、予算書の目的である「利益の設定」を、科学的観点から裏付ける意味がある。いい換えれば、勘や希望的観測、消しゴムによる修正を排除するためには、不可欠なステップでもある。
利益設定のために欠かせないGOP(Gross Operation Profit=売上高営業粗利益)について考えてみよう。レベニューマネジメントの観点から原価を捉えると、あくまでも不動産が主体であって、その不動産部門で必要な経費(人件費ほか)を差し引くなどして、不動産としての年間の収支を考えることになる。ところが旅館の場合は、分析シートで3大部門に分けたように、単なる不動産主体のレベニューマネジメントでは対処できない。3大部門が相互に関連しあっているからだ。
一方、そうした実情が旅館特有の曖昧なマネジメントに表れている。端的にいえば現在の旅館は、不動産部門に料理原価をはじめ厨房経費(人件費)ほかすべてを入れ込み、それを固定費とみなしてGOPやキャッシュフローを想定している。これではGOPも曖昧になってしまう。肝心なことは、基本となる不動産室料から生じる利益であり、さらに料飲や物販、テナントがある場合はそれら部門別の利益の総和に対して、部門ごとの運営費(人件費ほかの管理費や固定費)を控除したものがGODだということ。一言でいえば、不動産と料飲ほかを明確に区別する発想が出発点となる。
これらの発想と手順を踏まえた予算書のアウトプットでは、最初に次のような概念を把握しておかなければならない。不動産としての室料は、原価として清掃や布団、アメニティほかの経費がかかっている。それらと部屋別の平米数などを勘案することで、本来の不動産原価が算出できる。この場合の留意点としては、次のことが指摘できる。第一は、新館や本館、あるいは同一の館であってもリニューアルやグレードの違いを前提に従来の「全館」という発想を見直すこと。その上で適正な「室料」を明確にすることだ。
 視点を換えると、従前の不動産部門に全てを入れ込み、しかも全館で捉える発想では、室料の概念がないままに「料金」と大くくりで済ませていることになる。そうした状況下では、原価のどの部分をどう是正することで、目的がどこまで果たせるかが見えてこない。結果として経営を苦しくさせているのだが、どこを直せばいいのかが見えないジレンマに陥ってしまう。これが現状だ。したがって「室料」を明確にするのが手順の第一歩となる。
 横道に多少それるが、具体的な話しに落とし込んでみよう。本来の「室料」が明確であると、料理や館内消費は戦略的な意味で捉えることができる。簡単な例としては、老人会などを対象にしたときに本来の室料よりも「500円下げる」ことで稼動を高め、それによって売店などの館内消費を高める方策を講じることで、結果として何がしかの底上げにつながる。誤解してならないのは、闇雲の安売りではない。このケースでは、室料の明確化や販売対象の絞り込みなど、基本的な要件を踏まえた上での販売施策であるということだ。
 また、本来の宿泊料は、観光資源と宿泊キャパシティが連動して成り立つものだ。しかし、現実は資源とキャパのバランスを欠いている。旅行業者などの扇動も否定できないし、旅館側が無節操に肥大化してきた経緯も否めない。ただ、そうした現実を否定し、理想論だけで現状の打破はできない。大切なことは、現実に軸足を置きながら構造改革を進めること。前向きに捉えるならば、旅館特性の1つ温泉は、それ自体が旅館固有の独立した観光資源にもなり得ることを再認識しておきたい。ゆえに、売上にかかわる3大部門の実態を明確にし、それを踏まえた施策を講じることで活路が拓ける。

(つづく)