前回は、旅館版レベニューマネジメントのステップ1における不動産部門と料飲部門の取組みついて概要を述べたが、これには、さらに次ぎのことも加えなければならない。
実情を解析し、それを基に算出した不動産や料飲の両部門の料金は、さまざまなパッケージ料金にも反映されなければならない。そして、従来と根本的に違うことは、「○○ホテル」といった大きなくくりではなく、部屋タイプ別に料金を設定していく。極論をいえば、一部屋ごとに違うならば、それも加味するということ。もっとも、一部屋ごとというのは極端な例であり、概ね数タイプに分けられる。
こうした区分を必要とする背景は、例えば露天風呂付の部屋などは、ニーズとあいまって稼働率は高い。そうした部屋と一般的な部屋を混在させて「○○ホテルの稼働率」という発想は、どだい無理があったのだ。つまり、もともと高稼働の部屋については、それに見あった料金設定から稼働率を設定する。そうでない部屋は想定稼働率から料金設定に進む手法もある。
また、料理の組合せによっても料金設定は変る。これは、結果として不動産収入の確保を目指す発想でもある。例えば、不動産の室料価格と料理原価や接客サービス原価に基づく料飲価格を合算したものが、最終的な設定料金になる。シンプルに捉えると、この料金と稼働率を掛け合わせることで、全体の売上が構成される。そうした仕組みを明確に認識した上で、料理原価に「プラスα」することで、不動産の稼働率そのものをアップさせる手法も、ここでは選択肢の1つとなり得る。これが、旅館の特質ともいえる部分だが、そこには諸刃の刃といった部分もある。その特質要素は、従来の「勘」ではなく「科学的根拠」の下で実践することにより、プロフィット創出の有効な手段にもなり得る。いわば、料理をコマセに集客を増やせば(稼働率アップ)、それにつれて対象グレードの客室販売が増えて、それが他のグレードの客室需要を誘発し、結果として不動産部門の販売が膨らむという発想だ。
すなわち、旅館版レベニューマネジメントでは、原価分析を行って室料設定を行う。そこにシーズナリティを加える。肝心なことは、部屋タイプ別の要素を重視することだ。つまり、ホテルのように部屋タイプが一定でなく、しかも部屋ごとのビューや什器備品など内装によっても価値(客評価)が変ってしまう旅館では、全館ベースの対応に無理があるということだ。
セグメント分類とは、本来はどのような客層をターゲットにするかといった手法だが、部屋タイプが多様な旅館で、それを一括して実行しようとすると無理が生じる。したがって、部屋タイプごとにどのような客層をターゲットにするのか、といった内なるセグメントを前段として行う必要がある。これについては、旅館版レベニューマネジメントの次ステップの項で詳細を述べる。
さて、前回述べた稼働率の「70%設定」について、今後の展開に不可欠な部分であることから、補足的に説明を加えておきたい。
筆者は、稼働率に関して年間を通した「実勢定員数」と「実勢定員稼働率」など「実勢」の概念を重視し、さまざまな機会に提唱してきた。従来のスペースに基づく一般的な定員設定と、それがベースの稼働率では実情に即した対処が難しくなっているからだ。また、実勢に基づく数字とは視点を換えると実質的な館内での消費とそこから生まれる利益を、現実に即した形でシミュレーションするための基礎的な数字ともいえる。さらに、厳しい経済状況下はともかく、売上の前では運営コストに対する意識がややもすると負けている。売上がどんなに上がっていてもコストが肥大していれば、プロフィットは薄くなる。利益を最大限に引き出す指数の1つとして筆者は、実勢定員稼働率「70%」の数字を示してきたわけだ。この数字を基に運営コストを設定することで、オン・オフ期を踏まえた年間価格設も生きてくる。
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