これまで旅館版レベニューマネジメントの基本的な考え方を述べてきたが、その開発がなぜ必要だったのか現状に即した例示を――との読者の声に応えて、連載として若干の前後はあるが簡単に開発経緯を振り返りながら、仕組みを紹介してみたい。
プロフィットを創出するためには、2つの切り口がある。一つは贅肉ともいえる無駄な諸コストを削ぎ落とし、本来得られるはずの利益を確実に刈り取ること。いわばローコストオペレーションの実践である。もう1つは、売上の分母を拡大して利益そのものの増大を図ることだ。前者がややマイナーなの対して、後者はアグレッシブだ。いわば、後者は挑戦的であり、それこそ攻めの経営なのだが、景気が低迷するなかでは躊躇するのも否めない。
こうした2つの切り口を示すと、コストの削減もしているし、同時に売上拡大の方策も講じていると多くの経営者は答える。だが、問題は、その売上高を講じるスタンスにある。一般的にいえることは、希望的な観測や消しゴムで修正するような感じで売上高を構築していることだ。こうした展開はアグレッシブといえない。多少乱暴にいえば、合理的で勝算のある売上構築ではなく、蛮勇に近い危うさを伴っている。希望的観測が外れれば、結果は惨憺たるものだ。そして、多くの場合にその辛酸をなめている。そうした苦い経験は、次の段階で萎縮につながり、〈貧すれば鈍す〉で、萎縮はせっかくの好機さえ逸することにもなっている。その繰り返しがバブル経済崩壊後の、この十余年にわたって繰り広げられてきたといってもいいだろう。
現実に置き換えて具体例を示すならば次のことがいえる。筆者は、売上を構築するには、その一つの要素として単品管理をやらなくてはいけないと繰り返し指摘し続けてきた。ところが、それすら行われていない現実の中で、「予約管理や単品管理をするべきだ」「マトが大きすぎる」などの話をしても、多くの場合に「ならば、どうする」との問い返しがなかった。その際に、本来であればレベニューマネジメントに沿った展開手法を示さなければならないのは分かっていたが、レベニューマネジメント自体があまり知られていない状況下でそれを展開することは、筆者として少なからぬ無理を感じていた。というのも、筆者が旅館バージョンに仕上げる以前のレベニューマネジメントは、いわゆるホテルシステムとして不動産業の室料設定の機能が中心的だったからだ。ところが旅館の場合には、室料のほか飲食やパブリックが重要な要素を形成している。そこで、これらをアレンジする必要性を痛感していた。いい換えれば、アレンジなしでのリリースは、いたずらに混乱を招く結果にもなりかねないと判断した。
また、売上拡大策の視点から現実をみると、皆さんがいう企画は「いままでこういう企画をつくってきた」とか、「こういう企画をつくれば売れるはずだ」といった経験や勘ばかりに終始して、マーケットのウケやヒット率などをほとんど精査せずに商品化をすすめてきた。例えば、前年に行った「○○プラン」というのがたまたまヒットすれば、それがマーケットのニーズだと思い込み、「今年も実施しよう」という。そこには、「たまたま」といった要素が忘れられている。元を糾せば、適正なマーケット分析の結果として生み出された商品でなかったこと、ヒット自体も「たまたま」の幸運であり、それを精査せずに再度の実施を決めるなどは、それも蛮勇に近い所業といわざるを得ない。そうした展開でしばしば耳にするのが「今回は当らなかった」というセリフだ。裏返せば、「当らなかった」ことへの総括は、そうしたセリフを吐くことで終わらせている。商品がマーケット分析に基づいて造成されていなかったのと同質の〈悪弊〉がそこに潜むことに気づいていない。
ストラテジーの発想をもち出すまでもなく「たまたま」で経営は持続しない。ゆえに前3回にわたって述べてきた「科学的予測」が不可欠なのである。
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