旅館版レベニューマネジメントは、これまで述べたように、科学的な需要予測に基づく販売コントロールのためのツールといえる。今号では、基本的な概念を紹介してみよう。
まず、レベニューマネジメントを実施する目的を、大まかに整理すると以下のような表現が可能であろう。
客室在庫(先行予約状況)を常に的確に把握して、過去の実績データを勘案しながら、@自館にふさわしい客層(セグメント)へ、Aタイムリーな販売時期に、B適切な価格で販売する――といえよう。
つまり、現時点での残室を宿泊日までの残された期間の中に、利益が最も大きくなる販売施策を講じるのが目的といえる。そのためには、客層の絞り込みをはじめ、どのタイミングに幾らで販売するかが、成否のカギといえる。そうした販売施策を展開するときに、科学的な需要予測が施策決定の根拠になるわけだ。安売りをしてでも「とにかく売りさばく」という発想とは異なる。
視点を換えると、「どのタイミングに幾らで」という販売方法は、同じ客室が状況によって変化する価格施策ともいえる。これに対して旅館では、シーズンや曜日による需要の変化に合わせて価格を変動させてきた実態が、すでに存在する。いわゆる「特定日価格」として、休前日や繁忙期の価格施策を実施してきた。
ただ、従前の繁閑による変動価格は、「原価・経費・利益」と「マーケットの需要」を適正に対比させた結果とはいい難い一面がある。いわば、需要と供給の関係から導きだされた「業界の常識」に基づく価格施策の域にとどまる。逆説的にいえば、価格施策の前提となる年間予算の明確化や、その根拠となる客室基準価格の決定などで、少なからぬ曖昧さがある。ひいては、その曖昧さが旅行業者との取引でのマイナス要因になることや、消費者の価格不信にもつながっている。これらの点については、機会を改めて指摘したい。
さて、旅館版レベニューマネジメントでは、前述したように「客層・販売タイミング・適正価格」の意味あいが大きい。そうした視点で「とにかく売りさばく」といったスタンスとの違いを整理してみよう。
第1は、価格が安ければ当然ながら需要は広がる(下図・中央)。だが、需要を先行させることにより、それによって広がった販売量(A')が、本来は得られるはずの利益を損なう結果になる。第2として高額客の増加を目指す価格先行(同・右)では、増加分(B')を販売するために必要以上の営業努力を強いられるのは必定だ。どちらも、最終的に得られる利益面で問題がある。
一方、レベニューマネジメント(同・左)では、価格が一定の場合に売上額が最も大きくなるパターン(X・Y交点=C+D+E+F)を基準とし、これに価格の高低と吸収できる需要量の範囲内(A・B)を取り込む販売施策を展開する。したがって、従来の特定日的な変動価格とは根本的に発想が異なる。前号で記した分母の拡大による利益確保が実現するわけだ。
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