蓄積した実績データと現在の状況を勘案しながら「科学的な需要予測」をする「旅館版レベニューマネジメント」は、旅館の構造改革を提唱してきた筆者にとって、当然の帰結ともいうべきシステム開発となった。なぜならば、企業経営とは「プロフィット創出」を最終の目的としている。利益を得るために企業を経営するのであって、利益の得られない企業経営などありえないからだ。日本文化の継承を標榜する論があるのは否定しないが、利益を上げて経営を続けない限り、それを継承することも叶わない。俗にいう「建前と本音」ではなく、「利益をあげてこその旅館経営」といい切ることが、これからの旅館経営では最も肝心なことであろう。
ひるがえって、バブル経済崩壊後の価格志向は、旅館経営に大きな打撃を与えてきた。それと知られる老舗旅館の倒産や廃業も少なくなかったが、それらを遥かに上回る多くの旅館が、観光の基礎産業として経営を続けている。世情では「勝ち組」や「負け組」といった言葉も聞かれるが、現に経営を続けている旅館にとって、そうした世間の言葉に惑わされる必要はない。生き残って経営を続けている以上は、運営手法さえ適正化を図れば、さらなる飛躍が待っているからだ。そうした旅館へのエールを込めてリリースしたのが、ここでいう「旅館版レベニューマネジメント」だと理解してほしい。
前回のプロローグで、レベニューマネジメントの効果が発揮できる商品特性として、@在庫として繰り越せないA供給量があるていど固定されているB事前の予約が可能C需要にシーズンなどの波動があるDマーケット区分が可能――などを掲げ、さらに固定経費率が高く可変性が低い運営形態を指摘した。これらは、まさに旅館の実態と合致している。
例えば、現状の経営実態をみると、多くの旅館では売上の実勢に対して経費過多の状況に陥っている(左下図・上段)。そうした状況の打破に向けて筆者は、構造改革によるさまざまな運営変更を提唱してきた。一口でいえば「ローコストオペレーション」の実践だ。これによって運営コスト、とりわけ大きなウエートを占める人件費構造にメスを入れてきた(同・中段)。それ自体は、デフレスパイラルが進行し、低価格志向の続く状況下では唯一の改善策でもあった。そうした取り組みは、体質改善を着実に進展させるものの、改革の速度は遅い。時代の変化に追いつくための加速を図るには、分母である売上の拡大を図らねばならない(同・下段)。
これにはマーケットのハンドリングをはじめ、解決すべき問題が山積している。その第一歩として取組まなければならないのが、科学的な需要予測に基づく販売のコントロールだ、と筆者は考えている。
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