「求める理想は実現する」 その18
データに基づく科学的予測へ

Press release
  2006.08.19/観光経済新聞

 イールド/レベニューマネジメントとは、多くの読者において馴染みの薄い言葉かもしれない。筆者の近著『これが答えだ』(2006年1月、観光経済新聞社刊)において、以下のように概略を記し、ご記憶の方もいると思う。
「アメリカの航空業界で発達したイールド・マネジメントの考え方を紹介しておこう。多少乱暴ないい方をすると、航空機の「座席の在庫」をコントロールしながら「最大限の売上」を目指して販売するもので、過去の販売やキャンセルなどの実績をベースにして「Yield=(利益を)もたらす」という点に着目したマネジメントシステムである。これが、ホテル業界の収益性アップにも効果があることから、経営管理の新しい手法として注目されはじめている。いわば、需要のフォーキャスト(forecast=知識に基づいた予想)である」
つまり、過去の実績データと現在の状況とを勘案しながら、最大限の利益が確保できるように販売をコントロールしようとする考え方が、イールド/レベニューマネジメントなのだ。このこと自体は決して新しい発想といえないかもしれない。実際の経営においては、過去に遭遇した経験やそれらが根拠となる「勘」などで、需要を予測しながら販売をコントロールしてきた事実がある


だが、経験や勘はどこまでいっても「個人技」の世界であり、個人の技量・力量によって結果が左右されてしまう。需要のフォーキャストを「知識に基づいた予想」と規定しているが、これは経験や勘といった個人の知識の意味ではない。客観的なデータを駆使した「科学的な予想」と理解しなければならない、と筆者は考えている。
それが可能となった背景には、コンピュータ技術の著しい発達がある。過去の実績はデータとして蓄積され、それらを検証・解析しながら予測することが可能となった。余談ではあるが、そうしたコンピュータ技術の一つにデータマイニングと呼ばれるものがある。基本は、人間の頭脳の働きを模したニューラルネットワークの活用だ。技術的な解説は省略するが、人間の脳細胞は140億個ほどあるといわれており、学習や経験を重ねることで「知識が増える」というのは、個々の細胞がネットワーク化されていくこと。若干の飛躍はあるが、何かを1つ学んだとすれば、幾つかの細胞がネットワークを形成したと考えていい。逆にいえば、140億個あっても、ネットワークされていなければ何の知識もないに等しい。
本題に戻ろう。過去の実績データを一定のルールの下で解析すると、これから起きるであろう事象について、ある程度の予測が可能となる。その場合に、データが多ければ多いほど精度が高まることは、おそらく誰もが認めるはずだ。ところが、どんなに優れた人間であっても、自分で経験していないこと、知識としてもちあわせていない事柄についての予測は、不可能に等しい。また、知識や経験があっても、もてる全てを絶えず縦横に駆使しながら思考することは、生身の人間にとって難しい。思考の中で抜け落ちたり勘違いがあるからだ。その点コンピュータは、同じ演算を何万回させても手を抜いたり勘違いせずに計算をし続ける。つまり、勘ではない科学的な回答を導き出す。もちろん、その回答が絶対なものではない。最終的な判断は人間に委ねられているからだ。
さて、こうした手法で需要予測をする場合には、幾つかの条件が必要だ。端的にいえば、@在庫として繰り越せないA供給量があるていど固定されているB事前の予約が可能C需要にシーズンなどの波動があるDマーケット区分が可能――などの商品特性をあげることができる。冒頭で「航空機の座席」と紹介したが、まさにこれらの特性を備えている。加えて運営面では、固定経費率が高く可変性が低いのも1条件。ホテル業界から注目されているというのも納得できよう。だが、多様な客室と多彩な接客サービスなどで、画一的に捉えられないのが旅館だ。ゆえに、旅館では取り入れられないとするのは早計であり、それを可能にしたのが「旅館版レベニューマネジメント」である。


(つづく)