「求める理想は実現する」 その17
経営者と同質のカネの遣い方を

Press release
  2006.08.12/観光経済新聞

 前号に続き「営業利益15%以上は会社経営の絶対条件」について考えてみよう。前回例示した「1GM・4M」体制を旅館の実情に合わせて考えてみると、まず各部署の管理者が現実に何をやっているかといえば、そのセクションの@業務監督A課員の人材育成B部署の人件費コントロールなどに集約できる。だが、さらに仔細にみた場合、例えば布団敷きや片付けの現場では、パート従業員の中で気の利いた人間が監督といえるような役割についていることが多い。いい換えれば、正社員ではなくてもこなせる管理業務ということになる。つまり、これまで何の疑念もなく踏襲してきた組織構造や管理構造そのものを見直す必要がある

こうした組織体制が人件費とも連動しているということを再認識する必要がある。
このことを踏まえて旅館の「1GM・4M体制」を考えると、1GM=ゼネラルマネージャー(総支配人)の下に配置する4M=マネージャーは、営業、接待、館内運営、経理の各部署ということになる。これでこと足りるはずだ。あとは、その補佐役を育てながらビジネスヒエラルキーを構築することになる。
問題は前述した幹部を「育てる」「鍛える」システムのあり方ということになる。
その説明の前に、笑うに笑えないたとえ話をしておきたい。それが、現実の旅館では社長が「裸の王様」になっているということだ。多くの部課長を配置した組織構造がそうさせているわけだ。組織論の上からいうと、越権行為や職権乱用は許されない。そうしたルールは、半面で各管理者を「こじんまり」とした枠に収める作用もある。それを「覇気がない」とうそぶく経営者もいるがそれこそが裸の王様だといえる。
筆者は、コンサルをとおして2代目社長に、しばしば訪ねる決まりセリフがある。それは「自分に経営能力があり、それを活かすために2代目を引き受けたのですか」ということ。これに対して多くの場合、「必然性がそうさせた」「いわば宿命みたいなもの」という答が返ってくる。そうした答えの内容が問題なのではない。なぜなら、どんな答え方であっても、経営者として現実の旅館を切り回している。「経営している」という何ものにも替えがたい現実が歴然とある。断崖絶壁に立って仕事の工夫をしているのだ。
経営者として、その苦しみと工夫が、実は「育てる」「鍛える」システムの根幹を成している。いわば、経営者と同様の苦しみと工夫をする意識を管理職の中に醸成し、共有させること。それが社内カンパニー制ということになる。そうなると、本当の意味の4マネージャーを育成した旅館が「勝ち」という結論がみえてくる。そこで等級給与制によって、各人の力量にふさわしい処遇をしていくなどの施策が必要になる。

一方、社内カンパニー制を現実に運用した場合、膨大な量の経理事務が発生する。端的なのは、各カンパニーに経理が必要となる。だが、本々は同一の旅館であり、解決の途は従来と発想の異なる共用データベースを構築し、必要な情報のみをデータコンバートで活用すればいい。例えば、フロントカンパニー、厨房カンパニー、接客カンパニー……といったカンパニー化を図るが当面のレベルだ。それを実現させたのが「総合経理システム」なのだ。
そこでは、各カンパニーの経理状況が見えてくる。そうなると、売上が下がれば自分の収入も減少する。下げないためには工夫が必要になる。例えばカンパニーとしての人件費が不足すれば会社から借り受けることになる。その借受金額が管理者自身の退職金などに連動するとなれば従来のように無頓着ではいられない。コストセンターのように与えられた予算内で運用するのとは異り、バーチャルだがキャッシュフローも明確になる。
「カネを稼ぐ道」を金科玉条のごとく信奉する経営者は多いが、「金を遣う道」を教えることが人材育成には欠かせない。それが、経理面からみた経営哲学の1側面だと筆者は考える。


(つづく)