総合経理システムの基本フレームは、本シリーズの冒頭で述べたとおり2つに大別できる。これまで5回にわたって1番目の「徹底したローコストオペレーションの実践」について述べた。今号から2番目の課題である「営業利益15%以上は会社経営の絶対条件」について述べる。
ここでいう業利益15%以上とは、いわば「会社のノルマ」であり、それを達成するには@利益ストラクチャーを確保するシステムの構築A経営(戦略)と管理(戦術)の見直しB幹部を「育てる」「鍛える」システムの採用――などが必要となる。
そして、これらの3項目は相互に関係しあっているとの認識が欠かせない。したがって「会社経営の絶対条件」に答える結論は、一口でいうならば「社内カンパニー制の実践」ということになる。
社内カンパニー制の一般的な定義は以下のようなものである。「会社の内部組織でありながら、独立した会社のような自律的な経営を実践する組織制度」であり、視点を換えるならば労働生産性管理の1つの方法だといえる。また、事業部制よりも自己完結性の高い形態でもある。事業部制は、売上や利益をある程度あげるといった計数管理を目指しているが、キャッシュフローの概念に乏しいからだ。これに対して社内カンパニー制は、@会社の資本はじめリソースをカンパニーに分類して、それを活用していくものでありAバーチャルの範疇といっても確実にキャッシュフローなどがついてまわる。まず、この2点を念頭に置いてほしい。
つまり、社内カンパニー制の導入・実践は、@組織の自己完結性をより高めることで環境適応力が高まるA責任・権限の拡大、経営責任の一層の明確化により、カンパニートップの経営者マインドが高まるといったメリットがある――ということになる。いささか教条的な言い回しになってしまが、旅館バージョンのカンパニー制を模索していくと、さらに幾つかの制約条件に突き当たる。
というのも、一般的なメーカーや商社と旅館では、社内カンパニー制とひとくくりにはできない根本的な相違要件がある。この点は、とくに留意しねければならない。なぜならば、社内カンパニー制を実践しようとする場合、産業としての特質や、企業(旅館)で働く社員の力量が大きなファクターになるからだ。
喩えとしての適正はともかく、旅館の社員に就業動機を聞くと「接客業が好きだから」というのはまだしも、「勉強が嫌いだったから」「これぐらいしか、できないから」といった答えが多く返ってくる。これでは、スキルといった面で十分とはいい難い。いい換えれば、理論を振りかざしたところで理解の得難い環境にあるともいえる。さらにいうならば、経営側の処遇でも、10年経ったら係長、15年経ったら課長というような安易さが多分に感じられる。こんな労使関係下では社内カンパニー制の成立は難しい。同時に、こうした慣例というか「馴れ合い的」な経営体質が、実はコストの押し上げ要因であり、さまざまな弊害を引き起こしている。
管理職に絞って人件費を考えてみよう。「10年経ったから〜式」の旅館に対して、米国などのホテルでは「1GM(ゼネラルマネージャー)・4M(マネージャー)制」を敷いている。この違いを端的に例えるならば、管理者コストの按分にある。総売上の2%を管理者コストとするならば、年商50億円なら1億円になる。それを旅館では係長・課長から総支配人まで何十人で分け合うのに対して、1GM4Mの5人体制ならば個々の分配額が多くなるのは自明の理だ。逆にこの発想を度外視して、2%どころか5%10%と肥大化させている現実が、旅館にはみてとれる。
また、会社がハイレベルな目標を掲げていても、幹部のスキルが低ければ、その器より高い物は実現できないのが自然の摂理ともいえる。しかし、手をこまねくわけにはいかないし、総入れ替えなどの非現実ではない新たな方法論、組織論が問われる。その答えが我田引水ではないが、「部課長管理のノーベル賞もの」といわれる総合経理システムなのだ。
|