「求める理想は実現する」 その143
景気大循環で求められる変革

Press release
  2009.7.4/観光経済新聞

 単価を下げて客数を増やす「薄利多売」の発想は、少なくとも現行の運営システムのままでは限り成り立たない。よく言われる「たら・れば」の不確定要素の世界であって、希望的観測を土台にした砂上の楼閣でしかない。さらに言えば、数字のマジックでしかない。なぜならば、GOPが確保できない理由が、明らかになっていないからだ。まず、この点にメスを入れるのが焦眉の急だと考えられる。

実際の手順としては、前回指摘したように「どこで損をして」「どこで儲けているか」を明らかにするための「室料収入」の解析がスタートラインだ。これは、宿泊売上の「室料売上」と「料飲売上」(料理提供原価)を改めて区分すると言う意味でもある。

この作業は、単なる帳簿上の科目整理だけではない。一般経済で物流と商流をコントロールするのと同様に、作業動線と経理の流れを整合させながら、必要に応じて新たな流れを構築する意味がある。極めて末梢的な例を挙げれば、客室係の業務をみると、料理提供にかかわる部分と送迎ほかの業務が混在している。これを客室係の「人件費」として一括処理するのではなく、業務内容ごとに案分してみることだ。その結果、料理提供にかかる手間とコストのバランスが妥当であるか否かをはじめ、社内に潜むムリ・ムラ・ムダといった「社内埋蔵金」の発掘も可能になる。それだけでも相応のGOP貢献があるはずだ。もっとも、これは前述した末梢例であって、本旨は全部門をトータルに捉えて、全部門共通の運営システムを構築することにある。

余談ではあるが、経済の分野で「景気循環」と言った場合、一般には4つの捉え方があるようだ。企業の在庫投資を起因とするキチン循環は、約40カ月の短期波動。企業の設備投資を起因とするジュグラー循環は、約10年の中期波動。建築物の需要を起因とするクズネッツ循環は約20年。そして、技術革新を起因とするコンドラチェフ循環は、約50年の長期波動とする大循環だ。現在の景況がどの循環の、どの位置にあるか――経済学の門外漢としては断言する見識をもちあわせていないが、短中期の循環ではなく技術革新を必要とする大循環期にあるような気がしている。アメリカのオバマ大統領が選挙中に「チェンジ」をキャッチフレーズ化していたのは記憶に新しいところだが、チェンジは、旅館の経営システムや運営システムにも求められていると考えるのが妥当だろう。運営システムをドラスティックにチェンジする必要性を訴えている遠因は、皮膚感覚で捉えた大循環期に影響されているのかも知れない。

本題に戻ろう。「室料収入」の解析でスタートラインに着いた後は、GOP向上の具体的な施策を展開することになる。おおまかに言うと、@オールラウンド運営(GOP2%以上の改善)A客数に連動する出勤人員体制の確立(GOP1%以上の向上)B料飲率(料理運営コスト)の見直し(GOP7%以上の向上)など3つの取り組みが挙げられる。

このうちオールラウンド運営は、フロントや売店、パブリック部門の専任者(必要人数)の見直しを行うもの。加えて、時間帯ごとの客動線とこれら部門の業務にかかわる要員を、柔軟で効率的に整合させる運営システムに再編する。また、接客部門のオールラウンド運営は、接客係の備品や料理セッテングを当番制にした集中作業の実施で可能となる。このほか、各部門を状況に合わせて相互乗り入れが可能な運営システムに再編する。したがって単一部門のみにこだわっていては全体改革ができない。

2つ目の客数に連動する出勤人員体制の確立は、端的に言えばシフト運営を行うことであり、客数に連動した出勤人員の調整機能を強化することだ。

そして、決め手は3つ目の料飲率の見直しだ。料理運営コストの見直しとは、GOP確保に必要な「室料」を宿泊売上から差引いた「料飲費用」で運営することになる。そこには、いわば技術革新に匹敵する発想の大転換が求められる。発想に齟齬がなければ、コスト削減を行った後の料理品質向上も行える。

(つづく)