前回は、単価が1万2000円でGOP15%だったのものを1万円で売れば、GOPが消し飛んでしまうとも述べた。そうした安売りだけでなく、「GOPが確保できない理由」を明確にすることが根本的な現状打開策につながっている。
前段として、数字のマジックではないが、実際に陥り易い錯覚例を挙げておきたい。計算の便宜上から数字を単純化して1軒の旅館を想定してみよう。平均の宿泊単価(1泊2食)が1万2000円で、年間10万人の利用があり、付帯収入を除いた年商は12億円だった。また、料理では定評を博していたことから料飲率(食材原価、厨房経費、配膳、接客経費、食器洗浄など料理提供にかかわるすべてのコスト)は50%と高いが、それでもGOPは15%を確保していた(表中①)。その旅館が、価格志向の流れの中で平均単価を1万円に下げざるを得なくなったのを想定したケースだ。
なず、現状と同じ比率で一般販売管理費(一般販管費)と料飲高、GOPを算出すると、客数が従前と同じならば年商は10億円に目減りする(表中②)。GOPもそれに連動して3000万円の減少となる。また、料飲率は同じ50%であっても単価が下がっていることから、1人あたりに換算すると従前の6000円より1000円下がった5000円にしかならず、これまでと同じクオリティの料理提供はできないことになる。同様に一般販管費も同じ35%だと7000万円の減額となって、料理のクオリティと同様に従前の態勢を維持するのは難しい。
一方、単価が下がった分を補てんするために人数を増やす発想がある。単純計算で年商を帳尻合わせするならば、10万人を12万人にすることになる(表中③)。数字だけをみると、一般販管費と料飲高、それにGOPは同率で同額となる。ところが、料飲率50%で料飲高の6億円は、1人あたりに換算すると前出(②)と同じ額面の5000円にしかならなず、料理クオリティは下げなければならない。また、評判どおりのクオリティを維持しようとすれば、1人当たりの料飲高6000円は、宿泊単価の6割(料飲率60%)に跳ね上がってしまう。結果としてGOPは5%にまで急落することになる。
単価を下げて客数を増やすと言った薄利多売の数字のマジックは、少なくとも現行の運営システムをドラスティックに変更しない限り成り立たない。これが、はまり易い陥穽ともいえよう。
これに対して、宿泊単価を1万円に下げても成り立つ発想がある(表中②-②)。年商は10億円に減少しているが、一般販管費は従前の態勢維持に必要な額面を確保し、GOPも同様に目減りしていない。その要因は、それぞれの比率にある。とりわけ料飲率が40%に下がっているのが最大のポイントだ。額面でみると従前の6000円が4000円にまで削減されている。これではクオリティの維持ができないと思う読者も多いことだろう。だが、そこにドラスティックな発想の転換が介在する。満足重視の具体的なコンテンツを前面に据えることで、新たな運営手法が創造できるからだ。永年にわたって培ってきた「伝統の暖簾」に多少の痛みは生じるが、暖簾を絶やさない努力の方が、今は必要な時期だ。
単価が下がって人数は変わらず、それでもGOPアップとは、現状ではイメージをしにくい発想かも知れないが、決して不可能な取り組みではない。
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