「求める理想は実現する」 その141
利益の出ない理由を考えよう

Press release
  2009.6.20/観光経済新聞

 消費者の価格志向の強まりは、視点を換えるとコンテンツ重視への変化とも言える。あるいは、「実体経済」といった言葉が一般的になってきたのと同様に、バブリーなブランドに購買意欲を刺激されてきた従前とは異なる購買行動をとるようになってきた。自分自身が体感して満足度を評価する姿勢の強まりとも受けとめられる。

そうした消費者への対応では、雰囲気や情緒などの抽象的なコンテンツではく、極めて直截的な表現が求められている。例えば、新聞広告に氾濫する旅館の広告では、「夕食は80品のバイキング」などのヘッドコピー、さらに差別化のための「○○1匹付き」といったサブコピーも多用されており、具体的な中身を前面に打ち出している。コンテンツ重視の消費性向を踏まえたとき、旅館でのバイキング形態の食事提供は、ある一定の価格セグメントまでは需要を十分に吸収できる状況にあることの証左といえよう。

肝心なことは、どのような形態であってもお客が満足を得ることができ、旅館側に適正なGOPが確保されていなければならない、と言うことに尽きる。

さて、冒頭の価格志向に戻って売価とGOPの関係を改めて整理してみよう。お客の満足度は、売価とクオリティが大きな要因となり、それが客数の増大につながっている。安くて「相応の満足」が得られればいいわけだ。例えば、最近ではワンコインショップの人気が高い。クオリティが極端に欠如していなければ、100円玉や500円玉などのワンコインは、安直な価格インパクトで消費を誘発できる。ある意味では、安価がクオリティの一部になっている感じも否定できない。

ワンコインショップの経営者が言う。「たとえ1個が1円の利益であっても、1億個売れば1億円になる。まさに薄利多売なのだ」と。そうした話を聞いたか聞かずかは定かでないが、町に1軒のワンコインショップが開店した。安さに惹かれて客が多く、傍目には繁盛と映った。だが、数カ月も経たないうちに店じまいした。賢明な読者に顛末の解説は不要だろうが、気づかないうちに同様の陥穽にはまっているケースも少なくない。それが値引き価格だ。

価格志向が強まる中で、ワンランク下への値引きスパイラルが恒常的に続いている。単価が12000円だったのものを1万円で売っても、そこから利益が弾き出せているのならば、利益率が減るだけだ。ところが、現実をみると12000円でGOPが15%ならば1800円になる。それを1万円で売ってしまえば、GOPを「0円」にしても、さらに200円不足する(下図参照)。企業活動にあって、そうした愚は許されない。

この構図が、前出の「陥穽にはまっているケース」なのだ。もちろん、食材原価の低減や人的サービスの削減など、相応の手だてを講じて0円は回避しているはずだが、根本的な解決をしなければ、いずれ先は見えてくる。

根本的な解決には、避けて通れないいくつかのステップがある。なによりも肝心なのは、「GOPが確保できない理由」を明確にすることだ。筆者の専門分野である疫学に譬えるならば、食中毒の原因菌を特定しなければ、現実の対応策だけでなく後日の予防策も講じられない。当然のことがだ、値引きをしたことだけでなく、それによって生じた各部門の現状を厳正に解析し、それを踏まえて適正な是正策を講じなければならない。言うは易しであり、それを実行に移すためには、発想の大胆な転換が必要だ。もっとも、「どこで損をして」「どこで儲けているか」を明らかにする程度だと思えば、それほど肩肘を張らずに取り組むこともできると考えられる

(つづく)