価格志向に対応する中で、ときには売価が仕入値を下回っていると言えるようなケースさえ皆無ではなくなった。昔から「出血大サービス」「赤字覚悟」などと言う言葉もあったが、実体は言葉と裏腹に相応の利益を確保している。額面どおり赤字ならば、ビジネスとして成り立たないのは当然の理だ。前回、発想を転換してオペレーションをドラスティックに組み換えることで、プロフィットへの新たな道を歩む――と記したのは、前述の「言葉と裏腹」と同様に、利益の確保できる仕組みを再構築しようするものだとも言える。
視点を換えてみよう。消費者の側からすると、やはり「安いに越したことはない」のが現下では本音だ。したがって、フレーズとしては「赤字覚悟」などの言葉に魅力を感じるが、旅行という「夢」のある世界にそのフレーズは馴染まない。広告宣伝のコピーでは、基本的に否定的な言葉を使わない原則と共通する部分と言ってもいい。
そこで、最近の新聞広告などを見ると、価格とバイキングメニューや別料理特典などを大書したものが氾濫している。「その価格でこうした特典までつけるのか」と感じるのは旅館側の目線であって、消費者はそれでもさらに安くて魅力ある旅館を探し続ける。それは、かつてのブランド志向ではなく、コンテンツ先行の選択姿勢といってもいいだろう。
若干、横道に逸れるが周囲にいる観光業と無関係な婦人から、何気なく聞いた話を紹介してみよう。1泊2食8800円、夕食が70品のバイキングでの答えは、ただ1つ「安くて満足」だったと。理由は「すべてを食べたわけではないが、品数の多さに圧倒された」と言う。レストランの1皿ごとの料理に置き換えてみると、少なく見積もっても帰りのレジで4000円は請求されるだろうし、ホームパーティーでの材料を買うことに比較すれば、1〜2万円出しても揃えきれない、と言った話だった。主婦感覚とは言え、ある意味で消費者心理を語っているようだ。
本題に戻ろう。コンテンツ重視の姿勢の強まりは、ある一定の価格セグメントまでは、バイキング形式の対応で十分に需要を吸収できると言う意味にもなってくる。そこに、GOPを確保できるヒントもある。
例えば、前述の話のようなバイキング形式では、30人必要だった接客係が10人でまかなえる。それだけでも料理提供にかかわるサービス人件費は、そうとうなコストダウンにつながる。だが、人件費に手をつけてサービス品質の低下や、それによる評価の低下をきたした苦い経験を、バブル崩壊後の価格破壊時代に多くの旅館で経験した。そうした意味でのアレルギーも残っているのだろうが、いまは必要な時だ。また、ここでいう人件費の軽減は、料飲率のカテゴリーであって前回述べた仕入値の低減にもあたる。料飲率を指針にした人件費削減は、当時の闇雲なリストラとは違うのだ。
肝心なことは、満足度を維持しながらオペレーションコストを下げることにある。そのための1つの方法として、バイキング形式を何度か紹介してきた。もちろん、バイキングがオールマイティではない。かつてのバイキングのイメージを払拭した新しい工夫を加えなければ、決して起死回生の決定打にはならない。また、単一の価格セグメントだけならば大きな問題はないが、6000円から1万2000円までを同じ会場で対応しようとすケースなどでは、無理も相応に生じる。別料理で価格差をしのいでも、先付けなど人手のかかる方法ではコストが膨らむし、料金格差が露骨に見えると、低い料金帯の客層に妬ましさが生じてしまい、これもマイナス要因になってしまう。また、朝食での対応も挙げられる。最近では、比較的高単価の旅館でも、朝食はバイキングのケースが増えてきた。客単価が下は6000円から上は1万数千円までが混在している場合など、GOPに照らしながらどのラインに焦点を合わすかなどの課題もある。だが、料飲率として根底を把握していれば、方法論は見出すことが可能だ。
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