前回は、GOPの比率を高める意味合いを、年間の1室売上とGOPの額面という数字から追ってみた。価格志向の強まりによって単価が下がっているのに対して、「それでもGOPは上げられる」と言うのは、矛盾しているように思う読者も少なくないだろう。あるいは、単価が下がって客数も減っているにもかかわらず、GOPの額面が変わらないのは、それこそ数字のマジックと感じる向きもあることだろう。
疑問のすべては、現実のGOPを肌で感じているからにほかならない。以前は、平均単価が1万2000円だった旅館を想定してみよう。一般販売管理費や初期投資の返済などの総和として5000円はキープしなければならない場合、GOPを15%前後に設定すると、料飲高は5000円程度になる。料飲率に換算すると40%強だ。仮にそのグレードの旅館が、価格志向の波を受けて8000円の単価で販売しなければならないケースだと、販管費や返済原資を引いた残りは3000円にしかならい。すべてを料飲高に回した場合の料飲率は37%前後になるが、それではGOPはまったく出ない。1万2000円当時ののGOP15%(1800円)を確保しようとすると、料飲高としての残額は1200円にしかならない。
そこで、食事提供にかかわるオペレーションを根底から組み替えて料飲率25%(2000円)のオペレーションを想定してみる。それでも、従前のGOPには800円ほど不足する。そこで、販管費と返済原資にあてる5000円のうち、販管費に潜んでいるムリ・ムラ・ムダの贅肉を20%程度削減できれば、800円ぐらいは弾き出せるはずだ。GOPの額面は合わせて1800円になる。このときのGOP率は、22%強になっている。あるいは、現状を乗り切る窮余の策としてGOPを15%(1200円)に抑えると、料飲高は「1800+800=2600円」で料飲率は32%強となる。いずれにしてもGOP15〜22%のキープが射程距離内に収まる。
もちろん、この計算だけならば机上の空論でしかない。料飲率を机上で25〜30%に設定しても、お客に受け入れられる商品内容でなければ、何の意味もなさない。そして、これまでの経験則から、そうした料飲高では「ムリだ」と結論づけるのが、一般的な姿だった。しかし、そこに疑問を投げかけているのが料飲率の見直し論だといえる。
それは、価格を下げても利益を確保できる仕組みであり、あるいは料飲率を抑えても「満足を提供できる仕組み」と言ってもいいだろう。
例えば、これまでの議論の多くは、利益幅をどこに落とし込むかを焦点にして、1000円で仕入れた商品の売価を2000円にするか1500円にするかと言った話なりがちだった。そのためにニーズやマーケットプライスなどが関心事となって、仕入値の1000円は前提条件に等しいもので手つかずだった。だが、仕入値を800円にできれば様相は一変する。これ自体は単純な話で誰もが理解しているが、現実面では先入観のようなものからメスを入れずにきた感じさえ否定できない。また、仕入値の話をしていると、材料原価など末梢的な話題に移ってしまう。
いま「料飲率」の概念を強調している最大の理由は、材料原価だけでなく調理加工する厨房人件費、料理輸送や接客、最後の食器洗浄まで料理提供にかかわるすべてのコストを料飲高と捉えるためであり、それが売価に対して何%になっているかを指針化するのが料飲率だ。つまり、仕入値に該当する料飲高の中身を明確にし、現実的な是正措置を講じることで仕入値を下げることも可能となる。
価格志向によって売価が8000円になった前段の話は、逆説的に言えば、売価が仕入値を下回った設定になっている現実を顧みずに、ニーズやマーケットプライスとの整合を求めるような不毛堂々巡りに終止符を打つ必要性を譬えたものだ。
いま、最も求められるのは、発想を転換してオペレーションをドラスティックに組み換えることで、プロフィットへの新たな道を歩むこと。GOP15%以上も決して無理ではない。
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