厳しい経営環境が続くなかで、年間計画の予算が達成できないと言う話をしばしば聞く。予算については、どのような形で組まれているかが問題であり、とりわけ売価を想定するときの根拠に妥当性があるか否かが問われる。投資額から単純に逆算した数字では、妥当性に欠けるといえる。いわば、手前の理屈だけでは通じない時代にきている。この点については回を改めて細術するが、まず、現実的な面から入ってみよう。
例えば、予算として1室の年間売上が1200万円を必要とする場合を想定してみよう。イニシャルコストやオペレーションコストをはじめ、GOPを含むすべての総額がその価格だったとしても、実際に年間で締めてみると1000万円だったというような話はよく聞く。なぜ、そうした結果になるのか、あるいはどう販売展開をすれば1200万円になるのかは、しばしば議論されるところだ。しかし、実績結果は現実であって、どんなに考えたところで行きつくところは机上の空論でしかない。「今日の部屋を明日に売ることはできない」との譬えがよく聞かれるのと同様に、昨日売ってしまった価格が安かったと悔いてもはじまらない。
そうなると、現実の実績を自館のマーケット評価と捉えた上で、次の展開を考えなければならない。肝心なことは、実績が予算未達であっても、その実績が1200万円を売ったのと同等のプロフィットを確保できるような仕組みを構築する必要があると言うことだ。GOPを重視した経営では、売上総額の多寡ではなく、どこまでGOPを上げているかにほかならない。
仮に1室1200万円の場合、計算を単純化したのが下の評だ。その部屋のグレードや1泊当たりの利用客数、食事や接遇内容などの諸条件を勘案し、さらにGOP分として10%を内包した平均的な単価が1万2000円だとすれば、年間1000人の利用で予算額の1200万円になり、GOPの額面は120万円となる。これについての論拠は、ここでは割愛して「GOP10%、売上1200万円」を与件として以下の試算をしてみよう。
若干極端ではあるが、価格志向が強まるなかで、8000円の単価を想定してみると、客数が1.5倍の1500人になれば、数字の上では売上予算額に等しいものとなる。ただし、実際の運用面で可変的なコストは、客数の増加にスライドしてアップする。表中の「10%」は計算上のものであって、GOPはかなり下回ったものにならざるを得ない。
ところが、表中3段目のように、客数が1000人で単価8000円であっても、GOP15%弾き出せれば、売上が予算を大幅に下回る800万円でもGOPの額面は120万円で変わらないわけだ。さらに、GOP率が上がるにつれてGOPの額面を確保するのに必要な客数は少なくてすむ。
以上の数字は、あくまでも便宜上のものであって、実際はこれほど単純でないが、単に数字をもて遊んでいるわけでもない。考えてほしいのは、GOPが「はじめにありき」の発想方法をもってほしいということにほかならない。
では、どのようにGOPを弾き出すかだ。旅館の価格は、シーズナリティほか多くの要素を加味しなければならないが、最も根源的な問題は、いわゆる泊食を明確に分離すること。料飲率の概念を書き続けている最大の理由は、料理提供にかかわるすべてのコストを明確にする狙いがある。材料原価がいくらかかっているかを見るだけでは、料理のコストは見えてこないし、オペレーションコスト全体をコントロールできない。また、1泊2食込々の数字の表面は、どんなにいじってもオペレーションコストに潜むムリ・ムラ・ムダの実態はみえない。そこで料飲率によって各オペレーションを洗い直す必要がある。
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