「求める理想は実現する」 その137
諸コストに潜む「埋蔵金」探せ

Press release
  2009.5.23/観光経済新聞

 利益構造の再構築では、諸経費の現状を詳細に分析・把握して必要な是正措置を講じることが第一歩といえる。言い換えれば、これまで見過ごしていた経費の中には、少なからぬムリ・ムラ・ムダが潜んでいる。単価アップや集客の爆発的な拡大などが難しい経営状況下では、それらを洗い出して削減することが、利益構造を改善する当面の策にほかならない。政府予算ではないが、それらを旅館の「埋蔵金」と言っていいのかも知れない

そのためには、人件費や販売管理費の区分けを行う。その場合、従来の縦割り的な勘定科目の発想をひとまず横に置いて、日常業務の作業動線などに照らしながら再構築してみるわけだ。具体的には、人件費のうち料理提供にかかわる人件費(厨房・配膳・接客)とその他部門を切り離し、一般販売管理費についても同様に料理提供にかかわる部分を分離する。これらを踏まえて、現状の経費内容の把握に努める。この区分けは、現在はもちろん過去に遡った分についても何年分かを精査して、それらを対比を進めながら問題点を洗い直す必要がある。これが意味するものは、料理提供にかかわる諸コストの実態であり、それが料飲高(料飲率)だ。

さらに、それらを差し引いた諸経費にGOPを加えれば、年間に必要な室料が算出でき、年間室料を保有客客室数で割れば、1室あたりの平均年間室料も算出できる。それを基に部屋タイプやグレードで案分すれば、商品企画に欠かせない部屋ごとの年間室料も弾き出せる。これは、価格別セグメントの売価を決る際の不可欠な要素でもある。

 例えば、年間室料が1室1000万円ならば、そこにシーズナリティやその月の入り込み状態――安い団体が多い、比較的高めの個人客などの状況――を勘案して過不足を想定し、不足分をどう補てんするかを考える。それがイールドマネジメントの世界なのだが、それには対外的な販売施策が大きくかかわり、短兵急に飛躍することは混乱の原因にもなる。そこで、当面は客単価と満足度を勘案しながら、料飲率と室料のバランスで調整を図るのが第1段階だと考えている。いわば、売価に対して可変のできる要素である料飲高を調整して、必要な室料(販売管理費+GOP)を確保する形だ。

 料飲高の調整では、料理提供の形式、提供にかかわる人件費、メニューなどの見直しが必要とになる。料理提供の形式では、バイキングのメリットを何度となく紹介してきた。もちろん、すべての旅館に該当するわけではないが、少なくとも大・中型館で平均客単価1万2000円以下が過半数を占める場合、現状では有効な手法といえる。しかし、これまでのバイキング形式の発想の延長線上では、客離れの懸念が拭えない。端的に言えば、1万2000円と7000円を同じバイキング会場で同時に満足させることは難しい。1つのバイキング会場で複数の価格帯を同時に満足させる相応の工夫が必要となる。

 もう1つの料理提供形式である部屋食を考えてみよう。現状は、客室係1人が複数の部屋を担当している関係から、食事時間が重なると対応が難しい。そうした状況は、はじめに「部屋割りありき」の発想に起因している。これについては、食事時間が決定してから部屋割りをすることで、客室係の効率を改善できる。オペレーションを変更することで、1人でも複数の部屋を効率よく運営でき、同時に満足度アップも可能だ。ただし、そのこと自体はきわめてシンプルな発想だが、作業動線だけでなく送迎を含めた客室係の業務全体を俯瞰したシミュレーションが不可欠な点だけは付言しておきたい。

いずれにしても、右肩上がりを期待できない経済下では、埋蔵金の発掘がGOP確保に欠かせない。

(つづく)