前3回は、価格帯の中身が「適者」であるか否かを考察した。今回からは、それをさらに掘り下げてみたい。その前段として今回はマネジメントをはじめ、企業にとっての仕組みとは何であるかを再度考えてみる。
バブル崩壊後の「失われた10年」を経て、02年2月からの景気回復基調は「いざなぎ景気」(1965年11月〜70年7月)を上回る戦後最長といわれたが、実感の伴わない好況というのが実態だろう。それよりも、前年の01年3月に政府が認めた「デフレ状態」が、現在もなお続いていると考えるのは筆者だけでないはずだ。デフレは、俗に「陰気な犯罪者」と言われるように、陰湿な災いを随所におよぼしている。とりわけ経済面でみるならば、価格の伸び悩みというよりも下落傾向は、最近ことさら顕著になってきた。
GW明けのマスコミ報道によれば、トヨタをはじめ日本を代表する企業で、軒並み「赤字」の文字ばかりが目につく。そうした中で、デフレを逆手にとったような低価格路線で黒字を上げている企業も、一方では目立つ。その違いを軽々に論じることはできないが、黒字をあげている企業には、それに見合った発想と仕組みがあることに疑いの余地がない。従来の延長線上で小手先を変化させるだけで乗り越えられるほど甘い状況ではないし、まして成功例を外から見て真似るのでは、いたずらに混乱を招くだけでなく赤字の傷口を広げる危険性の方が大きい。
従来の延長線上とは、例えば旅館でいえば、セグメントとして1万2000円をメインに据えてきたものを、1万円に引き下げる対応もその1つだ。そこには、大雑把に言えば2つの形がある(下図)。1つは、サービス内容は従来のままで、価格のみを値引きする発想があげられる。もう1つは、サービス原価を下げて対処するものだ。
前者の場合(図中-値引対応)は、従来の価格セグメントだけでなく、値引き後のセグメントに対する訴求効果も加わる。一見すると売り易くなる感じもするが、これは錯覚でしかなく、利益の目減りは避けられない。そうでなくともGOPが厳しい状況下では、これは急場の一時しのぎでしかなく、決して長期化させるべきものではない。
一方、後者(図中-原価下げ)は人的サービスや料理原価などを引き下げる対応方法だが、結果として訴求セグメントは値下げ後の価格帯に絞られて、従来の1万2000円層は集客対象から外れていく。
ここで問題視しなければならないのは、与件として「従来の延長線上」と規定したことだ。1万2000円の満足提供をしていたときの販売管理費とGOP、料飲高の構図をそのまま縮小したのでは、GOPまでが目減りしてしまう。つまり、オペレーションの変更や利益の出る体質に変革しなければならない。
余談ではあるが、ファンドの手に落ちて経営方針の変わった旅館は、もともと設備投資などのイニシャルコストが低い。低価格路線ならばハード面のグレードを武器に既存旅館との勝負に分があることも否定しない。そうした旅館の低価格路線が勝負のカギのように映るかもしれないが、真似たところで勝算はあり得ない。
いま、経営において必要なことは、経営状態を解析して現状を把握し、どのような是正措置を講じるかということだ。値引きや原価下げをしても、必要なGOP確保の道はある。そうした仕組みづくりこそが、低価格時代のカギを握っている。
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