前回のケーススタディを続けよう。単価8000円で料飲率が51.9%では、もはや経営の先は見えている。GOP15%をデポジットすれば、室料としての宿泊・一般販売管理費は2650円しか残らない。そのまま経営を続ければ、当然ながらGOPは出ない。そのために、細部の捉え方と状況に応じた是正の必要性を述べた。
まず、細部の捉え方を紹介してみよう。基本は、客数1人当たりの状況がどのようになっているかを把握することにある。本題の前に余談を1つ。数学の世界に初期値敏感性という理論がある。私たちは、小数点以下の数字について日常ではあまり頓着しない。1円と1.001円の違いなどは、両方を1円と捉えても生活に不便が生じることは、ほとんどあり得ない。だが、1円を1億回足すと1億円になるのに対して1.001円は1億10万円になる。わずか0.001円ですらその差が生まれる。前回、水中の適者生存で空気中と水中の酸素量の違いをあげたが、その酸素量を現状のパイに譬えれば、少なければ少ないほど、小さな位の数字に目を向けなければならないことになる。
さて、料飲率の内訳を大別すると@原材料費A厨房人件費B配膳等人件費C客室係人件費の4種類になり、これを夕食と朝食それぞれ算出する。また、A〜Cの人件費についても、夕食と朝食に分けて算出する。前回のケーススタディでの与件は、平均単価が8000円で、月間の客数が5000人だった。こうした数字をもとに予算を編成する。
厨房人件費(表-1)は、月間500万円で板前やパートの人件費を賄う。その場合に客数が5000人だと、客1人当たりの人件費総額は1000円となる。さらに、夕食と朝食を7対3に案分すると、夕食が700円で朝食が300円になる。配膳・食器洗い等人件費も同様に算出する(表-2)。
一方、客室係は1日1万5000円の予算を、夕食1万円と朝食3000円、出迎え等2000円に分ける。ここで留意しなければならないのは、客室係が客何人に対応するかだ。それによって、料飲率に違いが出てくる。例えば、夕食時が10人対応だと「1万円÷10人」で、客1人に対して1000円の接客係人件費がかかる計算だ。朝食は、おおむねバイキング形式で30人に対応でき、100円ほどの人件費となる。
前回例示したケースでは、客室係1人が客10人に対応するものだった(表4-1)ために、料飲率は約52%だったが、これを20人対応(表4-2)とするだけで、客室係人件費が半減し、料飲率は約46%に下がる。
つまり、各構成要素を仔細に見直すことで、どこに問題点が潜んでいるかが把握でき、是正策を考える糸口にもなる。筆者が10年以上提唱を続けている旅館の構造改革は、こうしたミクロと全体を俯瞰するマクロの解析に基づいている。
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