「求める理想は実現する」 その134
適者生存の原理で経営見直す

Press release
  2009.4.25/観光経済新聞

 前号では、価格帯の中身が「適者」であるか否かをテーマに、利益を確保している安売りと赤字覚悟の値引きを引き合いに出して、その違いを考えてみた。実は、それこそが適者生存の原点ともいえる。この話は、もう少しだけ続ける必要がある。

例えとしての妥当性はともかく、人間が生きていくには空気と水が欠かせない。この当たり前のことは、普通の常識があれば誰もが理解している。では、水の中ではどうか。あまりにも馬鹿げた設問と思われるだろうが、的確な答えを即座にできる人間は、意外なほど少ない。直接あるいは間接の見聞など、経験則として知っている程度だからだ。人間と水性生物の違いは、極めて大雑把にいえば、生命を維持するための生理機能が根本的に違う。

例えば、空気は1リットル中に210ccほどの酸素を含んでいるが、水中には5ccしか含まれていない。魚は水中に溶けているわずかな酸素を、効率よく使う生理機能が備わっているために生きていけるし、この限られた酸素を消費しながらも、回遊魚の中には時速50キロを超す驚異的なスピードで泳ぎ回る魚もいるという。その機能が適者生存にほかならない。

何やら回りくどい話になってしまったが、昨今の経済情勢は、この空気と水の違いに例えることも可能だろう。酸素の濃度が違えば、その濃度に見合った生理機能をもたなければ生きていけないことになる。例えば、1万円分の濃度の空気を吸わなければ生きられない旅館が、8000円分の濃度しかない水の中に放り込まれたときに、従前の機能(マネジメント)のままであれば、瞬く間に窒息してしまう。それが適正価格を割り込んだ「値引き構造」のもつ潜在的な恐ろしさだ。市場の価格志向をどんなに云々したところで、救いの手はどこからも差し伸べられてはこない。言い換えれば、8000円の濃度の中でも適者生存を実現させる機能を備えなくてはならないし、その機能を身につければ、前述の回遊魚ではないが驚異的な展開の可能性もでてくる。

 では、適者生存の体質には、どうすれば可能かを考えなければならない。答えは、本シリーズのメインテーマでもあるGOPを、いかにして創出するかにほかならない。

 これまで、調理の原価といえば、いわゆる材料費を意味するケースが大半だった。それに対して筆者は、料飲率(料飲高)の概念を新たに提案し続けてきた。料飲率は、材料費のほか調理提供にかかわるすべての人件費と販売管理費の一部を含むものだ(下図・左側)。

 この料飲率をさらに細分化し、ケーススタディとして中心のセグメントが単価8000円の旅館をサンプリングした(下表・右)。このケースでは、料飲高の基準となる各項目の合計額が4150円で、料飲率は51.9%だった。単価に対してGOPを15%に設定すると1200円で、残りの2650円が宿泊・一般販売管理費ということになる。料飲高とGOPを含む室料は、単価が1万2000円〜1万5000円の範囲では5対5が妥当だが、それ以外の価格帯では、状況に応じて調整する必要がある。サンプル旅館の場合、中心単価が1万3000円前後だった従前の料飲率を変えていようだ。室料2650円では少なすぎる。それをGOPから補てんすれば、GOPは消し飛んでしまう。ゆえに、左表のような細部の捉え方と状況に応じた是正が必要となってくる。

(つづく)