「求める理想は実現する」 その130
企業風土に合うセグメントを

Press release
  2009.3.28/観光経済新聞

 コストと顧客満足をどのように図るかが、これからの生き残り策では真っ先に考えなくてはならない。その1つが、前回記した「新しい宴会方式」の模索だ。若干の繰り返しになるが、板前が宴会場に出ることで接待係のウエートが大幅に軽減される。この場合、宴会場で調理をすると言う意味ではない。下ごしらえなど、あらかじめ準備したものを運びこむわけだ。いわば、客の求めに応じて盛り付ける形になるが、バイキング形式のように盛り付けてあるのを、客が自分で取るのとはニュアンスが違う。自分の求めに応じて「つくってくれる」と言う演出効果が、満足度に大きく貢献することになる。

つまり、これからの旅館経営は、料飲高をコントロールしないと室料がとれないわけであり、そのための工夫が必要になると言うことだ。

そこで今回は、売上げを確保するための方策を2つの視点から考えてみたい。第1は、語呂合わせではないが「which(どの、どちらの)」を3回問う「サンドウィチ(3度ウィチ)の原則」が欠かせない。つまり、自社の「どの商品(企画)」を「どの価格帯」で「どのマーケットに売るか」を考えることだ。

2番目は、ISOの中にある「統計学的処理をする」と言う要求事項に着目することが挙げられる。例えば、不適合(クレームなど)が発生する場合、そこには必ず傾向がある。その発見のために統計学的処理が必要になる。多少乱暴に拡大解釈をすれば、クレームだけでなく満足にも傾向があるわけで、そうしたものを詳細にデータとして蓄積しておけば、そこから一定のルールが導きだせる。

この点については、いまさらの感があるかもしれないが、肝心なことは自社の傾向を把握することだ。一般論としての「最近の顧客ニーズは」と言った観点は、実は自社にとってあまり意味がない。なぜならば、6000円台でもGOPを確実に弾き出している旅館もあれば、3万円超でも客足の絶えない旅館もある。これは、第1に掲げた「サンドウィチの原則」が、その旅館のハード・ソフトとセグメントのニーズとが完全にマッチングしていることにほかならない。

筆者は、これまでも「いいとこ取り」の真似を否定してきた。成功しているケースは、その旅館の企業風土があるが故の成功であって、企業風土が違えば成り立たない。バブル期には、日本中の旅館で「個性化・差別化」と言う名の「没個性」が氾濫した。それでも当時は、右肩上がりの景況によって金太郎アメを消費者が買ってくれた。だが、現下の消費性向で、それを期待することはできない。したがって、自社だけに通じる傾向を的確に把握し、解析しなければならないわけだ。

余談だが、旅館の決まり文句に「伝統と文化」の言葉が使われる。伝統とは、特定の地域や団体、企業などが頑なに守り続けている「決まり事」と言える。祭りの前に数日間の精進潔斎をすることなどが「決まり事」であり、その結果として神楽や伝統的行事が行われる。最近では、「決まり事」をせずに神楽の所作や形ばかりにこだわる傾向が強い。いわば、精神が忘れられて形ばかりであり、そうなると形は簡略化され、やがて忘れ去られていく。

本題に戻ろう。前述の「統計学的処理」とは、日々の煩瑣な業務の中に埋もれている自社の「いい点・悪い点」を客観的に捉えるうえで最適なデータとなる。視点を換えれば、そこに自社の精神(風土)がある。また、もう少し生々しい例をあげるならば、予約のための問い合わせを「どこまで成約に結び付けているか」といった場合にも、不成立となった対応の仕方や状況を統計学的に捉え、それを解析することで成約率を高めるきっかけになる。また、そこから得たデータを基に、自社の価格セグメントを打ち出すこともできる。セグメントが適切であれば、稼働率が上がり売上げもGOPもスライドする構図ができてくる。つまり、売上げを上げる2つの視点は、両輪となって機能させてこそ成果に結びつく。

(つづく)